第11話 「世界に誇る松本の工芸」
5月。春の終わりから初夏に移っていく、爽やかな季節ですね。
よく風薫る5月と言いますが、ここ松本では「工芸の5月」という言葉もずいぶん定着してきたのではないでしょうか。県の森でのクラフトフェアをメインのイベントとし、その前後に市内のあちこちでいろんな分野の作家さんたちの展示が見られます。長野県内だけでなく遠く首都圏や関西方面からも何万人もの工芸ファンが訪れるようです。
時代の流れもひと昔前の大量生産大量消費の時代から、作り手の顔や考えが見える「個性的なもの作り」が好まれる時代に変化しつつあるように思いますし、そういった流れの中で「工芸」というものが注目されるのはもの作りに携わる人間のひとりとしてとても嬉しいことだと感じています。これから、沢山の工芸家たちが松本からも生まれ、感覚を磨き合って世界に向けて発信できるようになるといいですね。
「松本発の工芸」と言えば、楽器製作も世界に誇れるものだと思います。
残念ながらあまり広くは知られていないのですが、実は長野県はギター生産本数が日本一なのです。また多少前になりますが、1980年代はここ松本市が世界一のエレキギター出荷台数を誇っていました。私の聞いたところによると、最盛期には世界中のギター生産量の4割から5割は松本市で作られていたそうです。
私が20歳くらいの頃(1980年)は松本市内に「富士弦楽器」「マツモク工業」「モーリス楽器」などの300人規模の会社が幾つもあり、世界一の技術で楽器を作り出していました。
最近では残念ながら東南アジア諸国にかなり生産が移ってしまっていますが、今でも長野県には幾つもの楽器メーカーや工房があり、雨が少なく乾燥した楽器作りには恵まれた環境の中で高品質な製品を世界に向けて作り続けています。
松本は世界にも知られるスズキメソードやサイトウ・キネンなど、クラシックを中心に音楽に関しての素晴らしい環境があると思います。
でも個人的には、エレキギターやアコースティックギターなどのロックやポップスに使われる楽器はまだまだ公的には認められていないんだなと思うことも有ります。
是非松本の「世界に誇れる」楽器作りの歴史を皆さんに知っていただいて、日頃余りギターなどに興味が無いとおっしゃる方も、何かの機会に地元産の楽器に触れていただけると嬉しいなと思います。楽器に貴賎なんかありません。気軽に楽しんで下さいね。
(松本市民タイムス リレーコラム 2016年5月24日掲載分)