木を乾かす
樹はその中にたくさんの水分を持って立っています。
「人間の体重の3分の2は水分で出来ている」とよく言われますが、木も同じで生きている時は60%以上もの水分を含んでいます。
その大量の水分は木が切り倒された後に徐々に抜け、最終的には「平衡含水率」と呼ばれる15%前後に落ち着きます。乾燥するのに必要な時間は樹種や板の厚みによって違いますが、自然乾燥の場合は製材後数年かけてゆっくり乾いていきます。
ギターなどの楽器に使うにはそうやって水分が安定した状態の木をさらに薄く挽き割って数か月寝かせ、狂いを出してから加工する事が必要になります。
昔の大工さんは、「一寸一年」と言って3センチの厚みの板が使えるようになるには少なくとも1年は寝かす必要があるとしていましたが、とかく物事が急いで進む現代では何年も待っていられず「人工乾燥」という方法も使われます。密閉した部屋に木材を入れ、高温の蒸気で部屋を満たしながら数週間で乾燥工程を終わらせることができます。こうして乾燥させた木材は寸法や形状が安定し、建物や家具、楽器などにも安心して使うことができます。
ヒノキ材で有名な木曽では、山奥で伐採した木材を筏に組み川に流して運んだそうです。生の木を川の水に漬けることで木の乾燥が早く進むという効果もあり一石二鳥だったのだと思います。
港にある貯木場でも水に浮かぶ丸太材を見ることができますが、これも木を水に漬けることで木の割れを防ぎながら細胞内の水分を放出させやすくする狙いがあるそうです。水の中で木が乾燥していくなんて不思議ですよね。
木は伐採後の年月が長いほどしっかりと乾燥し安定してきます。一般的には伐採後600年の間徐々に強度を増し、その後数百年かけて少しずつ弱くなると言われます。
現存する世界最古の木造建築である法隆寺は、1300年経った今もなお建築当初に使われたヒノキの柱が塔を支えています。ヒノキの強さは木材の中でも圧倒的な寿命を持つようです。ある意味ではコンクリートや鉄よりも強い存在なのですね。
以前、ウイスキーを育てた後の樽材を手に入れてウクレレを作る機会がありました。樹齢100年を超えるオーク材が樽になり、そしてまた数十年ウイスキーを育んだ樽材は、その木自身もしっかりと熟成され楽器になっても素晴らしい音色を奏でてくれました。
100年育った木をまた100年生きるように使う責任を感じます。