ひかりのひと
あおいろ、そして白
みどりなすこの時代の田畑
それはひかりの車窓のカンヴァス
そして、マッチ箱の家屋の連なり
さかなのかおにも似た走るとどろき
いなづま
稲の妻のひかりのスパーク
実存の風景
なにも語らず
実存の初秋
なにも意味なく
はいいろ、そして赤
とりどりのデザインの貧困
この国ときたら
ひとりぼくたちはひかりの煉獄のなか
この国ときたら
みどりなす田畑
自転車の少年と少女がならんで走る小径の直線
語るべき文体のないまっすぐな午下がり
大気は実存
実存はこの意味まみれのぼくたちの灰色の脳髄
きいろ、そしてそら色
この列島の疾走する逆説の安楽椅子に
ぼくたちは深く、深く、腰をおろすだろう
そうして唐突に思い出される記憶のみちびき
それはミケランジェロの設計による水の流れのような青白き階梯
いつの日かぼくたちは
その記憶の階梯を
夢中になって踊るように駆け降りてくる
夢、そして哲学
理屈っぽいけど退屈じゃない
さあ思い出してごらん
ニューヨークのホテルのバスタブに浸かりながらみたテレビのアニメーション
なぜか亀さんたちが忍者になって都会の悪と闘う
亀さん忍者のお名前は
ルネサンス時代のやんちゃで偉大な芸術家たち
さあ口にだしてごらん
透明な大理石、そして山、また山
いつだって街にはちゃんと河
さあ口にだしてごらん
ぼくらの味方さミケランジェロ
はずむようにその調子
歌うように亀さん忍者の名前を口にだしてみる
さあ、夢でもスキップ
ドナテッロにラファエロ、そしてレオナルド
なぜだか愉しい
意味なく愉快
なのにこの時代ときたら
鉄塔、そして墓地
クリニック、そして建売住宅
毛皮の看板囲い込む稲穂の群れ
羽毛ふとんの看板かき抱く田畑
ビニールハウスに
パチンコ店のネオンサイン
そして高速自動車道路
なのにこの世界ときたら
それでもぼくたちはひかりのひと
世界を振動の渦にまきこむ
鉄橋だ鉄橋だ
そしてまたもここにもおなじ河
うす紫、そしてなに色
でもぼくたちはひかりのひと
この国を縦断する
ひかる稲妻
うす紫、そしてなに色
(小山伸二・第一詩集『ぼくたちは、どうして哲学するのだろうか。』より)