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社交不安障がい者が旅をする。#51

朝食を買おうと、近場のスーパーまで来た。
並んでいる商品は、ほかの国とさほど変わらない。
これまで訪れた東南アジア諸国のように、野菜や果物は種類が豊富だ。
だけど、明らかな違いは商品ひとつ一つの値段の高さだった。

バナナとヨーグルトという、いつものメニューを揃えようと店内を回る。
ベーカリーコーナーでは、タルトやブリティッシュスコーンが存在感を放っていて、つい足を止めてしまう。
まあ、後で食べ歩きすればいいか、と誘惑を振り切った。

ヨーグルトを見付けて、後はバナナを買いたいというところまで来た。
そのバナナも見つけたのだが、どうやら量り売りのようだ。
しかし、どこでどうやって値をつけるかよく分からない。
店員さんに聞いてみることにした。

「你好。这香蕉什么地方能测量? (このバナナはどこで測ればいいの?)」

恐らく英語でも通じたかもしれないが、一応中国なんだし中国語を使いたいという気分だった。
もちろん、広東語ではなく普通话だ。
そうして店員のおじさんに聞いてみると、レジの方でできるよ、という風に教えてくれた。

「普通话でもいけるじゃん」

いきなり北京語で話しかけてみたが、通じていたようだ。
みんながみんなそうではないとは思うが、北京語も話せる人が多いのかもなと思った。

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街に繰り出して最初にやって来たのは、香港島の東側のエリアだ。
ここには、特に何かあるというほどでもない。
ただ、林立する高層マンションという香港らしい景色がみられると聞き、訪れてみた。
地下鉄の駅を出ると、いきなりその様な風体のビルが目の前にあった。
さらに歩いていっても、周りは同じような建物で囲まれている。
一部屋ごとに、ビルの外壁に室外機が置かれている。
中の様子は分からないが、昔両親が北京に持っていたマンションの一部屋と似た雰囲気なんだろうな、という気がした。

うまく言葉にできないが、日本のマンションでは感じられない「中国っぽさ」。
ここにもその片鱗があるような気がして、懐かしい気持ちになった。

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少し団地を見て回ると、次の場所に行こうかなという気になった。
行きと同じ地下鉄に乗ろうと、来た道を戻る。
すると、一軒のお店の前に、大勢の人が並んでいるのが見えた。
何のお店だろうと思って見てみると、お粥を提供するお店のようだ。
お粥は、中国では日常的に食べられている定番の一品だ。
そろそろ12時になろうとしていたこともあり、この店でお粥を食べていくことにした。

並んでいると、僕の順番がやって来た。

「一碗瘦肉粥。能在这儿吃吗?(お粥1つ。ここで食べれる?) 」

「这是带走的队列啊。 (この列は持ち帰りの人の列だよ。)」

「哦,那带走去吧。 (あ、じゃあ持って帰るね)」

12月の香港はそれなりに寒い。
暖かそうな店内で食べようかと思ったが、どこか別の場所でいただくことにした。

頼んだ品を受け取り、とりあえず駅の方角に歩く。
すると、道の途中に公園を見つけた。
ちょうどベンチもあって座れそうだ。

「ここで食べるか」

ベンチに腰を下ろし、お粥の入った容器の蓋を開けた。
容器いっぱいに入った熱々のお粥が姿を現す。
薄切りの豚肉が入ったシンプルなものを頼んだが、このシンプルさが何とも言えない安心感を持たらしてくれる。
付け合わせの胡椒を振って、一口、口に運ぶ。
味は、なんの変哲もないお粥だ。
だけど、食べると尚更、安心感と充足感が心と身体に広がっていくのを感じた。
それに、この寒い中で食べているからこそ、よりおいしく感じられる気がした。
あのお店に行列ができていた理由が分かった。

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次に訪れたのは尖沙咀という場所だ。
九龍の南に位置するこの場所は、香港の中でも人気の観光スポットのようだ。
しかし、当の僕は、そんなことは来てみるまで知らなかった。
ではなぜここに来たのかといえば、香港らしいものを食べ歩きしたいと思ったからだった。

地下鉄を降りると、駅はすでに多くの人でごった返していた。
地上に出ても、大勢の人がいる。
皆、南の方角を目指して歩いていた。
なんとなく付いていってみると、香港島のビル群が見えた。

「密度エグッ」

遠目から見ても、高層ビルが所狭しと立ち並んでいた。
なんなら山の斜面にまでそんな建物がたっていて、ほんとに土地の広さと人口が釣り合っていないんだなと思わせた。

景色を見飽きてからは、尖沙咀を歩き回った。
香港出身の友達に教えてもらった食べ物売ってないかなーと探し回るが、なかなか見つからない。
しばらく歩いて、格仔饼と呼ばれるワッフルに似たお菓子を見つけて買い食いした。
だけど、ほかに食べ歩きに向いたお店はあまり見つからず、時間だけが過ぎていった。
結局歩き疲れて、人気店らしく行列のできていたパン屋さんで、スコーンとタルトを買って次の場所に行くことにした。

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最後にやってきたのは、香港島の中心地だ。
ここから太平山の頂上まで登り、Victoria Peakからの100万ドルの夜景とやらを拝んでやろうという寸法だ。
山頂まで一気に登れるトラムもあるらしいが、ハイキングで向かうことにした。

地下鉄の駅を出て山麓まで歩く中で目についたのは、この街を走る高級車の多さだ。
尖沙咀でも少し気になっていたが、立て続けにテスラ製の車が走ってくることも珍しくない。
そこら辺に路駐しているのもテスラ車だったりする。

「30秒に1回はテスラ車見てない?」

割と冗談抜きにそう思った。
走ってきたトヨタのシエンタが、子犬のようにかわいく見えるほどだ。

人口過密地域であると同時に、この地域には富裕層も大勢いるということも聞いていた。
何でも住民の11人に一人は、金持ちなのだそうだ。
しかし、さすがにここまで露骨にそれを感じることになるとは思っていなかった。

さらに歩いていくと、行く手は傾斜の激しい山道に変わった。
下手したら45度以上ありそうだ。
だが、こんな道でも高級車は悠然と上っていっているし、その先には高層マンションも見える。

「こんなとこにもビル建てちゃうのね」

ホントに人口密度高いんだな。
香港に一軒家1つもないんじゃないの?
そう思ってしまう。

そんなこんなで、険しい山道を登ること約一時間。
ついにViktoria Peakに辿り着いた。
雲に覆われてはいるが、東の空には沈もうとしている太陽が見えた。
九龍側を見ると、相変わらずVictoria Harbourの向こうでビル群が密集していた。

しばらく山頂にある商業施設の中で休んでいると、日も暮れる時間になってきた。
改めて展望デッキに行ってみると、噂の夜景が見えた。
うん、確かにきれいだ。
でも、今日は曇っているからか、遠くまで見えなくていまいちパッとしない。
それでも、ハイキングの中で色々と面白いものが見られて満足していた。
数枚写真をとって、帰路につくことにした。

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