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社交不安障がい者が旅をする。#35
泊まっているホステルでは、マレーシアから仕事をしにやって来たおっちゃんと一緒の部屋だ。
しかも、他の宿泊者がいなくなり、おっちゃんと2人で部屋を共有する形になった。
一音一音がはっきり発音されない彼の中国語は相変わらず聞き取りづらい。
それでも、憎めない笑顔の彼と、ちょこちょこ言葉を交わしていた。
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シンガポール滞在3日目。
多くの観光客のお目当てであろうMarina Bay Garden周辺のアトラクションにはあまり興味がないし、Merlion Parkからの夜景も既に拝んでしまった。
この国でやりたいことも少なくなっていたが、まだ訪れていないシンガポール国立美術館に行ってみることにした。
到着した美術館は、立派な建物だった。
内装もおしゃれで、どういう構造になっているのかさっぱりだ。
$20でチケットを買い、見学を始めた。
どこが経路なのかもよく分からないので、とりあえず行けるところから行ってみることにした。
すると、Gallery 1と書かれた説明書きが目に入ってきた。
見る順番としてはここからで合っていたようだ。
展示室に入ると美術館スタッフのおばちゃんが声をかけてきた。
チケットのシールを服かどこか、分かるところに貼って欲しい、との事だった。
それにしても、彼女は僕を見るや中国語で話しかけてきた。
地元の人ですかと聞かれることもあり、この国の人からすると僕は、中華系シンガポール人に見えるのかな、と思った。
展示を眺めながら次のギャラリーに進むと、今度はスタッフのおじさんが話しかけて来た。
「Where are you from?」
「I’m from Japan.」
いつもの癖で「I’m from China.」と言おうとするところを、一瞬考えて自分の正しい国籍を口にした。
するとおじさんは嬉しそうに、僕も20年前に日本に住んでいたことがあるよ!と教えてくれた。
その後も彼は、片言の日本語でこのギャラリーにある美術品を解説してくれた。
「This painting was made by Japanese artist.
(この絵は日本人のアーティストによって描かれたんだよ)」
「This one is painting about scenery in Vietnam but it’s very similar to Singapore when I was a kid.
(こっちはベトナムの風景画なんだけど、僕が子供の頃のシンガポールに似てるんだ)
ニテル、ニテル!」
日本から1人で美術館を見学しに来た僕を見て嬉しくなったのか、彼はギャラリーにある美術品一つ一つを一緒に見て回ってくれた。
そのギャラリーには、大小様々な風景画が展示されていた。
陰影を絶妙に描ききった夕焼け景色や、人や建物が極小サイズで描かれた遠くからの景色など、ぱっと見てもじっくり見ても息を呑む作品ばかりだ。
おじさんと一緒にそんな作品たちを鑑賞できて、1人で見るより数倍楽しめた気がした。
「Thank you so much.
ありがとうございます!」
おじさんに伝えて次のギャラリーに進んだ。
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この美術館では主に、東南アジア出身のアーティストによる美術品が展示されていた。
18世紀頃のものから現代まで、バラエティー豊かな逸品たちが納められている。
各ギャラリーにはテーマがあり、入り口にある看板で見られる作品たちが製作された時代背景や画法が学べるのが面白かった。
18世紀に描かれた作品は、その地域独特の伝統や景観にフォーカスしたものが多かったり、19世紀に描かれた作品は、戦争をテーマにしたものが多かった。
20世紀に入ると、一見キャンバスに色をめちゃくちゃに塗っただけに見える作品もあり、いったい何を表現したかったんだろうなどと考えてしまう。
そんな時に、作品の解説などを見ると「なるほど、そういうことか!」と思うことも多く、あっという間に時間が過ぎ去ってしまった。
「美術館を回るの、疲れるけど楽しいな」
これまでにも美術館を見学したことはあるが、その度に広い館内を歩き回って疲労困憊になっていた。
今回も例に漏れず、終盤なんかはかなり疲れてしまっていた。
疲れなかったら最後まで100%楽しめるのに、なんて思いつつ気づけば閉館時間になっていた。
ちょっと見過ごした作品もあった気もしたが、充実感のある1日に満足していた。
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