社交不安障がい者が旅をする。#37
Chili crab。
中国語では辣椒螃蟹と呼ばれている。
泥かに丸々一匹を蒸し、チリソースをかけていただく一品だ。
昨日のMeetupで、シンガポールでおすすめの料理教えて!と地元の人に聞いたところ、
「昼中華食べて夜インド料理食べる笑
それか、チリクラブかな〜」
そんな感じで、僕の隣に座っていたお兄さんが教えてくれた。
チリクラブ。
今まで聞いたこともないその名前に、興味を持った。
自分でも調べてみると、それはシンガポールの伝統的な料理らしかった。
「そういえば、宿の近くにカニの模型デカデカとを掲げたレストランあったな。
あそこで食べれるんじゃね?」
なおさらその未知の料理に惹きつけられた僕は、今日はシンガポール滞在最終日だし、夜はこれを食べてみることにした。
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夜になり、例のレストランの前までやってきた。
「辣椒螃蟹有吗? (チリクラブある?)」
「有啊。 (あるよ)」
「今天的螃蟹多少钱? (今日のカニはいくら?)」
「一百块。 (100ドル)」
一皿100ドル(12,000円)もするらしい。
想像以上のお値段だったが、ここまで来てやっぱりやめておこうという気にはなれなかった。
テーブルに着いて数分ほど待っていると、その料理はやってきた。
大皿にチリソースがかかったカニ丸々一匹が鎮座していた。
付け合わせの包子(饅頭)も大量だ。
「これ全部1人で食べれるなんて最高やな笑」
食べてみると、肉厚なカニと辛さ控えめなチリソースがよく合う。
たまに饅頭をチリソースに絡めてカニと一緒にいただくと、至高の味だった。
カニは丸々一匹なので、食べる際は自分で殻を割る必要があった。
若干手間はかかるものの、夢中で食べていた。
気づけば大皿に乗ったカニはなくなりつつあった。
ここに来て初めて、もう腹10割を超えそうなほど自分が満腹になっていることに気づいた。
それだけ、この料理は美味かった。
食べている間もシンガポールに来て一番の多幸感を感じていた。
値段は値段だったが、命(カニ)とこれを作ってくれるのに関わった全ての人に深く感謝したい気分になっていた。
この一皿のために高いお金を払いはしたが、それ以上の満足感と幸福感が得られた。
今感じている感覚を、誰かに与えることが仕事なんだと改めて思った。
自分が届けたい価値に対して、受け取ってくれた人が今日の僕と同じものを感じてくれたなら、そんなに嬉しいことはないだろう。
シンガポール滞在最後の日。
多幸感と、満腹すぎて苦しくなった腹を抱えて宿に戻った。