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社交不安障がい者が旅をする。#36
Singapore Botanic Gardens
沿岸部の観光地からは少し離れた場所にある、植物園。
2015年に世界遺産に登録されたと知り、それならば行ってみたいと思った。
この日、天気はイマイチだったが、そこがどんなものか見に行くことにした。
到着してしばらくすると、雨が降り出してしまった。
昼頃に一度大きく降ったのでもう大丈夫だろうと思っていたが、この辺りの天気を読むのは至難の業だった。
着いたばかりだったが、雨に濡れたくはなかったので1時間ほど雨宿りしていた。
しかし、雨は止む気配がない。
「まあ、別に濡れてもいいか」
カッパは持って来ていたが、いかんせん薄っぺらく来たところで濡れるのは必至だった。
それがなんだ。
濡れたところで乾かせばいいだけだ。
そう思って園内を歩き始めた。
植物園は、様々な種類の植物が生い茂っていた。
入園無料だし、代々木公園みたいな感じかな?と思ったが、それ以上だった。
明らかに人の手が入った場所ではあるが、きれいに整えられており、人々の癒しの空間になっているようだった。
植物以外に目に入ったのは、これまた色々な種類の鳥たちだった。
日本ではあまり見かけない黒い小鳥の群や立派な尾羽の鳥、湖を優雅に泳ぐ白鳥。
黒い小鳥たちは可愛い鳴き声で地面をぴょんぴょん飛び跳ねて移動していたりして、癒しの存在だった。
そういえば、クアラルンプールからシンガポールにバスで移動している際、休憩場所でスズメを見かけた。
彼らは停車中のバスの下を歩いているかと思えば、休憩場所にある建物の屋根に一気に飛び上がったりしていた。
そんな姿に、自由でいいな、なんて思った。
その気になればどこへだって飛んでいけるのかもしれない。
人間はどうだろう。
未来のことを憂いたり、過去のことに囚われたり、他人の声に縛られたり。
スズメはそんな事を気にして生きているだろうか?
いや、していないだろう。
彼らは自分の健康なんて気にしないだろうし、自分がどのくらい生きられるかなんて気にしないだろう。
ただ、今この瞬間を生きている。
もちろん、人間は様々な「関係」の中を生きている。
だから彼らのように生きるというわけにはいかない部分もあるだろう。
だけど、少しでも「今ココ」に集中して生きることが、豊かな人生を作るはずだ。
自由に飛び回る鳥たちを見て、そう考えていた。
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園の出口に近づく頃には、雨も上がりかけ太陽が顔を出していた。
少しばかり濡れてしまったが、雨の日の植物園も悪くないなと思いながらのんびり散歩していた。
地面を規則的に打ち付ける雨水をぼんやりと見ていると、別世界に引き込まれていきそうだった。
時刻は18時。
ちょうどいい時間だなと思いながら、次の目的地に向かうためバスに乗った。
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シンガポールには少し長めに滞在することにしていた。
だが観光地で行きたいところは既に一通り回ってしまい、ちょっと退屈だなと思い始めていた。
僕にとって、そんな時に行きたくなるのがMeetupだ。
この国では恐らく色々なイベントがあるだろうと思ったのも、長めに滞在することにした要因かもしれない。
そんな訳で、前日に気楽におしゃべりしよう系のイベントを見つけ、参加することにしていた。
会場のカフェに着くと、チラホラと人がいた。
イベントの案内を見ると、場所はカフェのすぐ手前の屋外席となっていた。
見ると1つのテーブルを4人くらいが囲んだ島がいくつかできている。
「多分ここかな」
一瞬、老若男女色々な人がいるその輪の中に入る事を躊躇ったが、少し勇気を出して声をかけた。
「Is this a meetup?」
「Yeah yeah yeah, please sit here!」
席にいた人たちは気前よく、ここにどうぞと仲間に入れてくれた。
簡単に自己紹介をして、今は東南アジアを中心に旅している事を話すと、僕入った島の3人は分かりやすく食い付いてくれた。
そんな感じので出しで、彼らの話も聞いたりした。
僕が話している3人は皆、シンガポール人とのことだった。
対面のお姉さんとおじさんは中国系に見えるが、流暢な英語で会話している。
隣のお兄さんは黒い肌でインド系に見えるが、違和感なくおしゃべりをしている。
「What do people in Singapore think about different races? (シンガポールの人たちは違う人種のことをどう思ってる?)」
文化や歴史の話題になってそんな質問をしてみると、別に色んな人がいるのが普通だよ、学生の時からそうだしね、と教えてくれた。
でも、隣のお兄さんはフィンランドに住んでいたことがあるらしく、その時には人種差別者とも出会ったことがあるとのことだった。
少しして同じ島に加わったのは、中国四川から留学にやって来ている少女だった。
中国出身の彼女は、とても流暢な英語を話した。
そんなこんなで、出会い系アプリの話になったり、車の運転の話になったり。
話題があちこち行ってしまって取り留めのないあたり、いかにもおしゃべりという感じだ。
僕も彼らほどの英語は話せないが、自分が持っているエピソードをしどろもどろながら話したりして楽しく過ごした。
後から、ああ、あの時こうやって言うのが文法的にも正しかったな、なんか変な言い方してたな、とか思い返してしまう。
その度に、次からは正しく話せればいいだけで今はこの場を楽しめればいいか、と自分を納得させた。
気づくとあっという間に2時間ほど過ぎていた。
この後は近場のレストランへみんなでディナー、ということになっていた。
未成年の留学少女や数人の参加者と別れながら、腹を空かした僕はディナー会にも参加することにした。
レストランまでの道すがらで話をしたのは、華人のお兄さんたちだった。
彼らはマレーシアから来たという。
しかも、日本に興味があるようで、片言の日本語で話したりした。
レストランに到着してからも、周りの席の人たちとおしゃべりしていた。
日本では転職はあまり良くないことと思われてるよねとか、歳が上なだけ偉いみたいな文化があるんだよねとか、仕事の話題になってそんな事を話していた。
隣に座ったおっちゃんは、自分なんて同じ職場で2年以上働いた事ないよと言って笑っていた。
陽気な彼は、自由に人生を謳歌しているように見えた。
この場にいる多くは、中国にルーツを持つマレーシア出身の人たちだ。
数世代前にマレーシアやシンガポールに移民として渡り、今はそれらの国に暮らす人たちと話してみるのはとても興味深かった。
マレーシア人のお姉さんは華人学校に行ったので中国語も話せる。
でも基本は英語で、マレー語は日常会話レベルだそうだ。
同じくマレーシア人のおじさんは、基本は英語で話すが、中国語も話したり聞き取る分には全く問題ないように見える。
だが彼は、中国語は両親と会話する中で身につけただけのもので、自分の中国語は「Broken Chinese」だと言った。
依然としてぱっと見は中国人なのに流暢な英語を話している彼らに少し違和感を感じたが、インドネシアに行けば中国人の見た目でインドネシア語を話す人が沢山いるよと教えてくれた。
多民族・多文化共生社会。
実際にそこに暮らす人と話してみて、改めて面白いなと感じてしまう。
日常会話レベルのマレー語だろうが、「Broken Chinese」だろうが関係ない。
ここにある社会は、色々な人を受け入れてくれる。
それをどう活かし、どう生きるかは自分次第なのだろう。
夕飯を食べ終え眠気が襲ってくるまで、色んな人とおしゃべりしてしまった。
いつもならもうすぐ寝る時間だなと思いながら、夜の街を歩いていた。