社交不安障がい者が旅をする。#31
ここまでの旅での宿泊先は、だいたい格安のホステルだ。
それらの宿には僕のように大してお金も無い旅人が多く滞在していて、出入りも激しい。
当然備品を乱雑に使う人もいて、水回りなどは特に汚れがちだった。
そんなホステルに泊まる中で、僕はある人たちへの感謝の念が絶えなかった。
それは、汚くなりがちな宿を掃除してくれるスタッフさんだ。
いや、ホステルだけではない。
旅をしていると、街中や商業施設内、ありとあらゆる所でその場の綺麗さを保つ為に掃除をしている人を見た。
僕は、そうやって美観を守る人たちを見ると、自然とありがとうと思ってしまう。
だって、誰も汚い所に居たくはないだろう。
仕事であれ、恐らく汚いな〜嫌だな〜と思いながらも丁寧に掃除してくれている。
そんな姿を見て、感謝の気持ちが湧き上がってくるのだった。
掃除をしてくれる人がいるからこそ、僕たちは綺麗な環境で快適に過ごせる。
彼らが「与えてくれたもの」に、感謝せずにはいられない。
自分がお金を稼ぐ為に働くのではない。
それは、「自分が得る」という目的に先立っている。
自分が「与えたい価値」を、誰かに提供するために働く。
本当に幸せな人は、それができる人なんだろう。
僕だって、同じように誰かから感謝されることを仕事としてやっていきたいと強く思った。
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クアラルンプール郊外にあるモスクを見に行った。
マレーシア華人博物館に行ったら、なぜか開いていなかった。
そんな感じで、この日も色々と街を散策していた。
最後に、行ってみようと事前にブックマークしていた神社に行くことにした。
お目当ての神社に到着すると、小雨が降り出してしまった。
急いで建物内に入って雨を凌ぐ。
訪れたのは、「天后宫」と呼ばれる寺院だった。
海を守る神である媽祖にまつわるこの神社には、中国っぽいランタンが大量に吊るされているらしい。
クアラルンプールにあるそんな寺院を生で見たくて足を運んだが、華やかな感じが中国らしくて気に入った。
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見学を終えて帰ろうとしても、雨は降り続けていた。
明日は早起きしたいし、その為にも今日は早めに帰りたい。
念のため、今日はカッパを持ってきている。
地図上では駅まで大した距離でもないし、電車に乗ってしまえばこちらのものだ。
しばらく雨宿りしていたが痺れを切らし、どうにか雨を凌ぎつつ帰ることにした。
しかし、しばらく歩いていると、いよいよ雨が本降りになってしまった。
「うっわ、最悪っ」
ズボンの裾をまくりながら、駅に向かって走った。
明日は移動の予定なので、荷物を纏めなければならない。
だから、極力服を濡らしたりもしたくなかった。
たがこの大雨では、カッパを着ていても容赦なく濡れてしまう。
結局駅に着く頃には、着ていた服の大部分が濡れてしまった。
イライラの矛先は、なかなか来ないモノレールにまで向いてしまう。
しばらくしてやって来たモノレールに乗り込み、急いで宿に帰った。
想定外の出来事にイライラしてしまった自分がいたが、落ち着いてみると何であんなにイライラしたんだろうと思った。
別に、服が濡れたところで乾かせばいいだけだし、ついでに洗濯でもすればいい。
明日までに乾かないなんて決まっているわけでもない。
人は自分の望まない状況が起こり、視野が狭くなっている時にイライラしてしまうのだろう。
でも、冷静に考えれば別にその程度のことは後からどうとでもなると解る。
予め「こうしよう」と想定して変に期待するから、それが裏切られた時に負の感情が湧き起こるのだ。
だったら、流れに身を任せて何にも期待しない心持ちであれるならば、楽に生きられるのではないか。
濡れた服を洗濯しながら、そんな在り方を意識したいものだと思った。