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社交不安障がい者が旅をする。#49

日が変わっても空は透き通るような青さだ。
シドニー2日目。
昨日はぶらぶら散歩をしながら、街の名所を巡った。
この日は博物館や美術館、それともう一か所、行ってみたかった場所に行くことにした。

Queen Victoria Buildingをちらっと回ってからやってきたのは、Australian Museumだ。
昨日は立派な建物の外観だけ拝んで帰ってしまった。
中の展示を見るべく、再びこの場所を訪れた。

常設の展示は無料で見られるようだ。
展示室に入ると、いきなり大きなトナカイの骨格標本が出迎えてくれた。
部屋にある展示見回してみる。
この部屋には、オーストラリアで収集された貴重な品の数々が収められているようだ。
説明書きをじっくり読むとこの土地の歴史が垣間見えて、なかなかに見ごたえがある。

次の部屋に進むと、大きなキリンの剥製が鎮座していた。
他にも豹やシマウマ、ライオンなど、様々な動物の剥製が置かれている。
部屋の奥には、巨大なクジラの骨格標本も見える。
この部屋では、多様な陸上生物や海洋生物の生態を学べるようだ。

壁に描かれた図の説明書きを読んでみる。
それは、地球上には色々な生き物がいるけど、みんな同じ微生物から進化した仲間なんだよ、ということを教えてくれていた。

それを見て、確かにそうだよなと思う。
僕たちは、人間同士の関係の中だけで生きているんじゃない。
この地球上の、ありとあらゆる生物との関係の中を生きている。
であるならば、どうしてそれらを蔑ろにしたり、破壊したりできるのだろうか。
この美しいシドニーの街を汚すなんて、そんなに気が引けることはない。
それに、ここまでに訪れた混沌とした国々や地域も、すべての生き物に優しい場所にしたい。
守っていきたい。
そう思わせてくれた。

2階には恐竜や、オーストラリアの先住民の文化に触れられる展示物が置かれている。
奥に進むと、環境問題について学ぶための啓発ブースもあった。
世界中でどれくらいの二酸化炭素が排出されているかとか、国ごとではどうかとか、図で分かりやすく描かれている。
横には、今僕たちに何ができるか、という具体的なアクションも示されている。
これは普段から気をつけているけど、これはできていなかったな。
そう思うものもあった。

オーストラリアという場所について学びつつ、自分が生かされている地球を大切にしていきたいという想いが強くなった。

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次に足を運んだのは、先ほどの博物館に程近い美術館だった。
Art Gallery of NSW
こちらも昨日は建物だけ見て通り過ぎていたが、展示されている作品を鑑賞することにした。

入り口近くにいた美術館スタッフのおじ様に聞くと、多くのギャラリーは無料で見られるようだ。
経路に沿って進むと、早速作品が目に飛び込んできた。
それは、「扉」をテーマにしたモダンアート作品だった。
遠近法を駆使して描かれているが、よく見ると線がつながっている先は現実ではあり得ないものになっている。
ぱっと見では色彩豊かな絵にしか見えないが、細部に施された仕掛けが見るものを楽しませた。
この作品だけで数分立ち尽くして見入ってしまったが、奥のギャラリーにも足を踏み入れた。

ギャラリーを渡り歩きながら、大量に展示されている作品を鑑賞する。
1階には風景画や人物画をはじめとした作品たち、地下に降りるとアーティストの感性の塊のようなモダンアート作品たちが目白押しだ。
一つ一つに見ごたえがあって、とても興味深い。
だけど、ただでさえ広い館内を歩き回って、足はこれ以上動かなそうだった。

何気に博物館や美術館を回るのは、非常に疲れる。
後半になると大抵疲れて、展示や作品をじっくり見るどころではなくなってしまうのが、毎回惜しいなと思っていた。
ここでも例に漏れずそんな感じで、途中からサクサクと回って美術館を後にした。

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バスに乗って疲れた足を休める。
シドニーの中心地を抜け、穏やかな住宅地を過ぎると一気に視界がひらけた。
Bondaiビーチ。
シドニーでブックマークしていた場所の一つだ。

なぜこの場所に来ようと思ったかといえば、普段見ている英語系Youtuberがよくこの場所で撮影していたからだ。
彼の動画には、海外の人に色々なトピックについてインタビューする、という趣旨のものが多い。
もちろん、語学力を延ばしたくて見ていたのもある。
しかしそれ以上に世界の価値観や文化が知れる動画たちは、僕の好みにドンピシャだったという訳だ。

そんなことで、海に入る気は全くないがビーチにやって来た。
雲ひとつない空と、遠洋の深い青色の境目がはっきりと見える。

海岸沿いの遊歩道には、ランニングをしたり犬と散歩をしている人々。
そしてビーチには、砂浜に寝転がって日光浴をしたりビーチバレーをしている人々の姿がある。
僕はビーチ近くのコンビニで買った割高のスナック菓子を食べながら、遊歩道にあるベンチに座って人々の様子を眺めていた。

そうして分かったのは、誰もが明るくオープンにこの場所での時間を楽しんでいるということだった。
閉塞感のへの字もない海。
それに加えてこの青空だ。
むしろ、この場所に来て気分が塞ぎ込むことの方が難しいとさえ思える。
それだけここは、環境的に恵まれた場所なのだろう。

のんびりスナック菓子を摘んでいると、あっという間に30分くらい経ってしまう。
ちょっと散歩してみるかと思って遊歩道を端から端まで歩いてみても感じるのは、景色も人も、そのオープンさが限界突破しているということだった。

「ほんとにいい場所だな」

溢れんばかりのポジティブなエネルギーを全身で受け取り、帰りのバスに乗り込んだ。

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宿に戻って夕飯のマカロニを摘む。
この日シドニーを巡って気づいたのは、博物館や美術館で多く見かけた中国人観光客が、ビーチではあまり見かけなかったことだ。
美術館でも英語のアナウンスの後に、中国語のアナウンスが流れていた。
それだけ中国から訪れる人が多いのだろう。
片やビーチではアジア系っぽい人の姿は少なめに感じた。
とにかくオープンなビーチの雰囲気は、アジア系のそれとは少し違うものなのかも知れない。

それでも、英語が公用語だけどいろいろな言語が飛び交っていて、多様性のある国であることは間違いなかった。
もっと言えば、それは人だけに限らず、動物も植物もだ。
この日も天気は最高で、外を歩いているだけで幸せな気分になってしまう。

「そりゃこんな場所があったら住みたくなるよね」

自ら体験して、身を持って理解した。

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