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社交不安障がい者が旅をする。#41
安い飯目当てで、この日も近場のスーパーのフードコートに昼食を食べに来た。
昨日とは違う店で注文しようと思い、目星をつけた店に並ぶ。
「パチェル・マディウム」
Google翻訳で調べた音節を発すると、店員さんは復唱してくれて伝わったことが分かった。
「qwedfghjklpi?」
続けて店員さんが何かを聞いてくるけれど、何を言ってるのか分からない。
聞き返す素振りをしてもう一度言ってもらうと、店員さんが発する音の中に「ナシ」という言葉が聞こえた気がした。
確か、「ナシ」はインドネシア語でご飯という意味だった気がする。
直感的に、ご飯と何か別のもので選べるのかなと思い、ナシと口にした。
すると店員さんは、分かりましたといった様子で番号札を渡してくれた。
「おお、なんか会話成り立った笑」
コミュニケーションの要素の中で、言語が占める重要度の割合は低いらしい。
実際に、翻訳アプリに頼らなくても注文できてしまった。
何となく雰囲気で察しても意外といけるものだなと思った。
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相変わらず、カオスの渦巻くジャカルタの街を色々と巡ってみようという気にはなれなかった。
このフードコートは座る場所があるし、エアコンも効いていて快適だ。
「適当につまむものを買って、一日中ここで過ごしてもいいかな」
割と本気でそう考えていた。
どうしようか考えながら、ふとMeetupのアプリを開いた。
現在位置を「インドネシア・ジャカルタ」に設定してイベントを検索すると、いくつか開催予定のMeetupが引っかかった。
適当にリストをスクロールすると、「ショッピングセンターで友達作りしよう!」といった趣旨のイベントを発見した。
しかも開催日は今日だ。
「インドネシアの人とおしゃべりしてみようかな」
イベントの概要を見ていると、無性に参加したくなってしまった。
ゆっくり過ごすのは明日にして、今日はこのイベントに行くことにした。
電車を乗り継いで、会場のショッピングセンターに到着した。
中に入るとカフェやレストラン、携帯ショップやスニーカーショップがしっかりと営業していた。
「なんだ、ちゃんとやってるじゃん」
一昨日見たシャッター街みたいなショッピングセンターは何だったんだろう。
施設自体が取り壊しになるか何かで、テナントが撤退してるところだったのかな。
よくあるショッピングセンターらしい雰囲気に安心していると、集合場所のカフェを発見した。
カフェの前では、3人の男女が立ち話をしていた。
話しているのが英語だと分かり、ここだなと思って話しかけた。
「Hello, is this a meetup?」
お決まりのフレーズで聞くと、そうだよと言ってその場にいた3人は自己紹介をしてくれた。
僕も、テンプレとなったフレーズで自己紹介をする。
少しすると、1人の青年がグループに加わってきた。
どうやら僕と同じく、このイベントには初参加のようだ。
話を聞くと、彼はジャカルタ在住で英語を勉強したくて参加したらしい。
「How come you speak English so well?」
気になった事を聞きながら彼と話していると、このメンツでショッピングセンターをぶらぶらしようということになった。
そうして、隣を歩く人が入れ替わり立ち替わりしながら、他の3人ともおしゃべりした。
3人の内、ウェスタンな風貌のおじさんはこのイベントの主催者だった。
妻がインドネシア人らしく、3年前からここに住んでいるようだ。
もう1人のおじさんは、中華系の見た目だった。
インドネシア出身だが非常に流暢な英語を話す彼は、オーストラリアへの留学経験があるようだ。
日本にも2回訪れたことがあるらしく、日本語を勉強していたらしい。
そして、見た目からも察することができる通り、曽祖父の代で中国からやってきた華僑だった。
豊満な体型のお姉さんも、インドネシア出身と教えてくれた。
彼女も流暢な英語を話している。
聞くと、好きで10歳の頃から勉強しているとのことだった。
ぶらぶらしながら次はどうしようかなという話になり、カフェで座っておしゃべりしようということになった。
各々注文をし、向かい合って椅子に腰を下ろす。
5人の島で会話をすることになった。
すると、それぞれが思い思いのことを話すといった形ではなく、1人が話しているのを他の4人で聞き、話終わったところで質問やツッコミが入るというスタイルになった。
最初にいた3人は会話のテンポが早く、割り込むタイミングが難しい。
僕と青年は、話を聞いてたまに訪れる沈黙で質問を入れたり思った事を呟いていた。
その後も、夕飯を食べるために店を移動したりしたが、おしゃべりは続いていた。
話題はコロコロ変わるので、付いていくのは中々大変だ。
僕も自分の思っている事を口にするが、うまく文章が頭の中でまとまらず、変な英語を話してしまう。
それでも、4人とも僕が言おうとしている事を察してくれて、会話は進んでいった。
時刻は20時になろうとしていた。
あまり遅くなるとよくないと思い、今日初めて出会った彼らに別れを告げた。
ホテルに帰りながら、なぜか自分が異様に興奮していることに気がついた。
おしゃべり自体は楽しかったが思ったように英語が出てこなくて、自分を責めている自分がいる気がした。
それに、自分は大人数でのおしゃべりはあまり得意じゃない。
一人一人のとじっくり向き合って話す方が好きだ。
充実感もある一方で、その事を改めて思い知った。