社交不安障がい者が旅をする。#23
僕には最近、ハマっている音楽がある。
2NE1の「lonely」だ。
10年以上前にリリースされたこの曲にハマったのは、旅のおかげだった。
ベトナム、ホーチミン市に滞在している時、ふらっと立ち寄ったショッピングセンターでBGMとして流れていた。
何となく耳に入ってきた曲に、なんかいいなと思い、楽曲検索アプリで辿り着いたというわけだ。
そうして、朝食を食べながらふと、この曲をまた聴きたくなってYouTube を開いた。
韓国語なんてさっぱり分からないのに、それでも僕の心を刺激する何かが確かにある。
そして、K-popやK-dramaが世界中で人気なことに代表されるように、住んでいる国や持っている文化が違ってもそれを越えて感動を共有できるのって、ものすごく尊い。
自分の人生を通じてこの感動をもっと味わいたいし、多くの人に届けたいと思った。
「そうだ、世界を繋ぐ」
これも、僕の奥底に根付いている大事なことだ。
美しいメロディーを聴きながら、なぜか静かに涙が溢れた。
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バンコクに約2週間も滞在しているのは、ワクチンを接種するためだった。
前回の接種から1週間、この日は狂犬病ワクチンの2回目と前回未接種のワクチンを受ける予定だった。
いつも通りバスに乗り、病院まで向かう。
既に1回目を経験済みなので、スムーズに事は進んだ。
ドクターとの問診に移ると、いくつかの病名を日本語で話してくれた。
ここに来る日本人の旅人もある程度いることが伺えた。
処方箋をもらい、ワクチンを購入する。
そのまま処置室に入り、ナースさんにワクチンを手渡した。
「Why did you come to Thai? (なんでタイに来たの?)」
「Because my friend said to me that Thailand was a good country.
That brought me here. (友達がタイはいい国だって言ってたからかな。)」
雑談をしながらワクチンを打ってもう。
明らかに、体の中に何かを入れられている感覚がした。
「先週のナースさんの方が注射上手かったのかな?」
そんなことを思わないでもなかった。
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近場のショッピングモールで暇つぶしをしていた。
朝、先日のmeetupで出会ったドイツからやって来たノマドワーカーの彼に、ボードゲームmeetupあるんだけど行かない?と誘われていたので、行くことにした。
開始時刻は19:00からだ。
時間になり会場に行ってみると、既に多くの人がボードゲームを始めていた。
見たところウェスタンの人が多く訪れているようだ。
適当に席につき挨拶をすると、僕が入った島でもゲームが始まった。
プレイすることになったのは、ぼくが全く知らないボードゲームだった。
ベテランっぽいお兄さんがルールを説明してくれるが、彼の言葉は右から左に流れていくようでうまく理解できない。
そのままゲームが始まってしまった。
「Everybody, close your eyes.
The person who has a bad card open your eyes and check your team members.
There must be three people opening their eyes.
(みんな目を閉じて。
悪役カードを持ってる人は目を開けて、チームメンバーを確認して。
目を開けている人が3人いるはず。)」
「Okay, everybody close your eyes.
And next, the person who has a percival, please open your eyes.
(そしたら、みんな目を閉じて。
次に、パーシバルのカードを持ってる人は目を開けて。)」
お兄さんが仕切ってくれるが、よくルールを分かっていない僕は変なタイミングで目を開けてしまう。
「Wait, there are two people opening their eyes.
(待って、2人目を開けてる人がいる)」
「Oh, I’m sorry.
(あ、ごめん)」
目をあけるべきではないタイミングで目を開けてしまい、ゲームは仕切り直しになってしまう。
「It’s okay, let’s start again.
(大丈夫、最初からやり直そう)」
場の流れから何となくルールを察しつつ、他のプレイヤーと一緒になって自分の手札を出していく。
その間にも、盛り上がった参加者たちは、オーバーなリアクションとともに、早口の英語を飛ばし合っている。
それを見ながら僕は、ゲームよりも人間観察の方が面白いなと思ってしまった。
「映画とかドラマで見るみたいなオーバーリアクション、ほんとにしてるんだな」
「海外の人もよく喋る人もいれば、振られた時だけ喋る人もいるんだな」
「でも、みんな低音ボイスで声がよく通っていいな」
声を張っても通りづらい僕とは裏腹に、よく通る声を参加者達。
だからこそこういった場を思い切り楽しめるし、そうでない僕には、こういったやかましい場は合ってないな。
そう思った。
1ゲーム目が終わった後、彼らの英語を聞き取るのも難しいし、ルールもいまいちよく分からなくて疲れてしまった僕は、早々に退室することにした。
それに、ノマドワーカーの彼も仕事が押してしまい来れないとのことだった。
そうして帰り道。
歩きながら、自分のリスニング力をもっと鍛えたいと思う一方、こういったハイテンションの場は、自分には合わないなという確信が強くなった。
別に、その場のノリに合わせることはできる。
だけど、そうしたところで本当に自分が楽しめるわけでもない。
それも知っていた。
世の中には色々なcharacter の人がいる。
ノマドワーカーの彼は落ち着いていて話しやすかったし、彼も僕を気に入ってくられたから誘ってくれたんだろう。
そうやって、自分にとって居心地のいい人を大切にすればいい。
海外の人もみんながみんなハイテンションではないのだから、世界中どこに行っても自分と波長の合う人と繋がれるはずだ。
改めて、「こういう場でも楽しめる自分にならなきゃ」という思い込みを捨てて、気楽に生きていこうと決意した。