社交不安障がい者が旅をする。#47
昨日とは別方面へ歩いてみる。
歩いていると、道端に子猫が横たわっているのを見つけた。
体は汚れ、手足はぴくりとも動かない。
どうやら息絶えているようだ。
インドネシアに来てから、かなりの数の野良猫を見かけた。
歩道の隅っこに子猫の亡骸が転がっていてもおかしくないのかもしれない。
こんなところで息絶えているのもかわいそうな気がしたが、迂闊に触って病気でもうつされたら困る。
黙祷だけ捧げて立ち去った。
.
歩いていると、突然和風な雰囲気の家屋が出現する。
よく見ると日本食レストランだ。
日本語で文字が書いてあったりするが、どこか不自然な文章だ。
この前はラーメンを食べたが、これ以上インドネシアに来て日本食を食べる気にはならなかった。
お昼時で腹も減ったので、通りがかりに見つけた飲食店に入ってみる。
半屋内の店内には、僕以外の客は誰もいなかった。
店の奥に入ってみると、カウンターのところに店主らしきおばさんが座っていた。
「Eat here. Sini.」
英語とインドネシア語でここで食べることを伝えると、おばさんはメニューを手渡してくれた。
待っていると、注文した料理が運ばれてきた。
見た目はいかにもインドネシア料理っぽい。
肉にはよく火が通っていて柔らかく、辛さもちょうど良い。
メインの料理は17,000ルピアで、日本円にして170円くらいだ。
改めて、こんなに美味しい料理をこんなに安く食べられるのはすごいなと思う。
「Where are you from?」
「I’m from Japan. Enak ya! (美味しかったよ!)」
また一つ、いいレストランを見つけてしまった。
お会計をしながら、優しそうな雰囲気のおばさんと言葉を交わした。
.
レストランからさらに歩いていくと、マーケットに行き着いた。
「ここがホステルのお姉さんに教えてもらったマーケットかな?」
フロントのお姉さんにMalangでおすすめの場所を聞いた際、いくつか教えてもらっていた。
恐らくここがそうだろう。
どんなものかと中に入ってみる。
すると、それほど人もおらず閑散とした雰囲気だ。
やっているお店もあるにはある。
だけど、無人となったスペースの方が多く、とても活気があるとは言えなかった。
.
マーケットを後にしてさらに歩いていくと、大きめのショッピングセンターに辿り着いた。
休憩がてら中に入ってみる。
屋内には色々なお店が入っていて、買い物には困らなさそうだ。
飲食店やフードコートもあって、ここでも格安でご飯が食べられそうだった。
フードコートの2階を見ると、和食レストランが連なっていた。
寿司、ラーメン、丼もの。
どのレストランにも日本語で文字が書いてあったりする。
ローカルなレストランでよく見かけるのは、ナシゴレンやバクソなどのインドネシア料理を提出するお店だ。
イタリアンやフレンチのお店はほとんど見かけない。
そんな中にあって和食のお店がこんなにあるのだから、インドネシアでは人気があるんだなと思った。
ショッピングセンターの地下に行くと、気になるお店を発見した。
日本語で「チクロー」という名前で、円筒状のチキンにソースを詰めた食べ物を販売している。
恐らく円筒状なのが日本のちくわを連想させるので、そんなネーミングになっているのだろう。
だが残念ながら、日本でそんな料理は一度たりとも見たことがない。
「あ、トンデモジャパニーズでた笑笑」
「日本のもの」というイメージ戦略で話題性を上げているのかもしれないが、さすがにツッコミどころ満載だ。
試しに一本買ってみてもよかったが、現金をあまり持っておらずスルーしてしまった。
.
ショッピングセンターを一通り見て回った僕は、再び街をぶらつき始めた。
「学生をよく見ると思ったら、この辺学校が密集してるんだな」
ショッピングセンターの反対側の道路には、複数の学校があった。
下校時刻なのか、道には多くの学生たちがいて楽しげにおしゃべりしたりしている。
さらに進むと大学も見えてきた。
街中にも、学生ウケの良さそうなお店を数多く立ち並んでいた。
そんな彼らを尻目に、車やバイクがひっきりなしに行き交う細い道を歩いていく。
所々、路駐や屋台のおかげで車道にはみ出さないと歩けないような狭い場所もある。
ヒヤヒヤしながらそんな道を歩いていくと、またショッピングセンターに行き着いた。
休憩がてら入ってみると、店内の中央にギターを弾き語りしているおじさんの歌声が聞こえてきた。
観客は誰もいないが、きれいな歌声でバラードを歌っている。
インドネシア語なのでどんな曲かは分からないが、なんだか癒される気がした。
エスカレーターに乗って2階、3階と回ってみるが、このショッピングセンターは先ほどのものよりも小さめだった。
ベンチに腰を下ろして数分休憩すると、もう出るかと思った。
去り際に弾き語りのおじさんを見ていると、近くにあるバケツに通りがかった人がチップを入れているのが目に入った。
それを見て、僕も投げ銭をしたい気分になった。
もう現金をあまり持っておらずそのまま立ち去ってしまおうかとも思ったが、引き返して彼の近くに置かれたバケツに小銭を入れた。
「Terima kasih」
彼はお礼を言ってくれる。
バケツの中には僕が入れた小銭以外、たった一枚の紙幣が入っているだけだった。
.
ショッピングセンターを出てさらに歩く。
頭の中では先ほどの弾き語りおじさんのことが気になっていた。
プロかどうかはさておき、彼は素敵な歌声をあの場に訪れる客に与えてくれていた。
だが、そんな彼に与えられたチップはほんの数ルピアだったように見えた。
人気のある歌手やバンドだったら、ライブをやるというだけで想像もつかない額を稼ぎ出すのだろう。
それが、なんだか不公平な気がした。
自分だって0から誰かに価値を届けようという時、実績や知名度がなければ「与えた」価値の大きさと「与えられる」価値は比例しないのではないか。
人気のあるものに便乗するのは簡単だ。
少なくとも僕は、誰かがいいと思っているからそれに乗っかるのではなく、自分自身の感覚でいいと思ったものに、お金や時間を投資したいと思った。
.
宿の方向に向けて歩いていくと、またもやショッピングセンターを見つけた。
とりあえず中に入ってみると、外から見た以上に奥行きもあって巨大な施設だということが分かった。
店内には有名スポーツ用品メーカーの店舗があったりする。
「これだけあれば買い物には困らなさそうだ」
ここに来る前は、小さな街なんじゃないかと思っていた。
だけど、実際に街を歩いてみると色々な施設があって退屈しなさそうだ。
「自然も近いしいいところだな」
買い物には興味のない僕は一通り見て回ると帰ろうという気になってしまったが、Malangはいいところだなと思う気持ちが強くなった。