社交不安障がい者が旅をする。#25
午前10時。
買い出しに行こうとしばらく歩くと、大粒の雨に降られてしまった。
あいにく雨具は持っていない。
仕方なく歩道橋の下で雨宿りをしていると、同じように急な大雨に見舞われた原付のドライバーたちも、雨宿りにバイクを停めてきた。
「なるほど、みんなこんな感じで雨宿りするんだな」
熱帯という気候上、スコールは珍しくない。
現地の人は、急に雨に降られても焦らず雨宿りするんだなと思った。
そういえば、この街の電車やバスに時刻表などといったものはなかった。
誰もが「待ってれば来る」という共通認識のもと、誰一人イライラする素振りもなく各々好きな方法で暇を潰していた。
そんなところから、この国の人たちは「時間に追われる」という感覚が少ないのかなと思った。
そうして生まれた「心の余裕」が、この国を「微笑みの国」と呼ばせているのかもしれない。
歩道橋の下で待つこと数十分。
雨足が弱まってきた。
この機を逃すまいと、早足でスーパーで必要なものを買い宿に戻った。
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バンコクに来て13日が経った。
今日はいよいよこの国を発つ日だ。
午前11時30分。
荷物をまとめて泊まっていたホステルをチェックアウトする。
バンコクに来て初めて泊まったのは、このホステルだった。
そこからワクチン接種後の副反応を心配し、落ち着いて休める普通のホテルに移っていた。
そちらの滞在期限が迫ると、次はどこの宿に泊まろうかと悩んだが、結局このホステルに戻ってきてしまった。
フレンドリーに接してくれた受付のお姉さんに挨拶をし、10日間ほどお世話になった宿を後にした。
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電車を乗り継いでやって来たのは、巨大なターミナル駅だった。
今日はここから寝台特急に乗り、タイとマレーシアの国境の街「Padang Besar」に向かう予定だ。
やたらと広大な割に何もない駅構内を歩いていると、フードコートに行き着いた。
ちょうどランチタイムだったので、こちらで何かいただくことにした。
注文したのは、極太の乾麺を7割くらい戻したような麺に、豚肉と小松菜のような野菜が入ったラーメンだった。
食べてみると、まだ硬い部分が残る麺の食感が独特で面白い。
少しとろみがあるスープも、さっぱりしていて食べやすかった。
ここまで辛めの味付けのタイ料理をいただくことが多かったが、このラーメンは口の中の熱さを気にせず食べることができた。
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乗車時刻20分前になると、予定通りゲートが開いた。
数分前からゲート前には列ができていたが、それに紛れ込んでいたため、スムーズに電車へと向かうことができた。
ホームに上がると今回乗車する電車と対面した。
紫色の車両はかなり年季が入っていそうだ。
チケットに書かれた車両に乗り込み、自分の席に腰を下ろす。
車内を見ても最新設備とは言えなかった。
「味があっていいな」
午後4時。
約1000キロを16時間かけて走破する長距離列車の旅が始まった。