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社交不安障がい者が旅をする。#48

Malangからバスに乗りSurabayaに向かう。
この街にある空港からインドネシアを離れることになっていた。

マランに来る際もスラバヤを経由してきたが、あの時は夜だった。
行きでは分からなかったが、この街は想像以上に発展していた。

「ここがインドネシアで一番暑い街か」

ジャカルタのMeetupで出会ったお姉さんから教えてもらったことを思い出す。
街には高いビルも建っているし、ショッピングモールや大学が点在しているのが車窓から伺えた。

スラバヤから飛行機に乗ってシンガポールに出戻りした。
ここで飛行機を乗り換える予定だ。
小さなスラバヤ空港とは違って、ターミナルは巨大だし夜でも色んなお店がやっている。

「さすがは東南アジアのハブ空港だな」

そんなことを思ってしまった。

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シンガポール・チャンギ空港から飛行機に乗る。
再度の手荷物検査を済ませて機内に入った。
自分の席を見つけて座ろうとする。

「Excuse me 」

3列シートの真ん中の席だったため、既に通路側に座っていたお兄さんに声をかけて自分の席についた。

「Are you from Surabaya?」

唐突に、隣の彼が話しかけてきた。
スラバヤ?
このお兄さんも見覚えあるな…

そうだ、彼はスラバヤからシンガポールまで飛ぶ飛行機の中で、僕の隣に座っていた。
偶然シンガポールからオーストラリアに飛ぶ飛行機に乗り合わせ、しかも隣の席になった。
そんな偶然が、彼と仲良くなるきっかけをくれた。

お互いに自己紹介をする。
彼はスリランカ出身で、スラバヤ近くの街に奥さんが住んでいるため会いに行っていたとのことだった。
今はオーストラリアのシドニーに住んでいて、奥さんも一緒に移住することを考えているそう。

僕がマランに滞在していてブロモ山に行ったなどと話すと、あそこはいいとこだよねと共通の話題で盛り上がった。

機内で夜を明かすと、到着までまた彼とおしゃべりした。
話題は仕事についてだ。
今はセキュリティ系の仕事をしているという彼。
PHPというプログラミング言語を使って、セキュリティシステムの開発や運用をしているようだ。
僕も前職ではエンジニアとしてプログラミングなどをやっていたため、そこにも共通点があった。

仕事で分からないことがあったらネット検索で解決方法調べたりするよね。
こういう仕事ってリサーチ力大事だよね。
とか、仕事を楽しめなきゃ人生つまんないよね。
とか。

ポジティブな考え方の彼とは、どこか息が合う気がした。

「I moved to Australia when I was seventeen.」

「Wait, so you moved with your family?」

「Yeah.」

「Do you speak Indonesian? Cause your wife is from there.」

「A little bit.」

スリランカで生まれて、家族でオーストラリアに移住した。
奥さんはインドネシア出身。
そんな彼の生い立ちを聞くのは興味深かった。

スリランカの公用語になっているタミル語やシンハラ語に加え、英語とスペイン語、少しのインドネシア語まで話せるそうだ。

仕事においても前向きな姿勢で、自分なりの考え方を持っている。
年も25歳で、僕の一つ下だった。

約7時間のフライトは、あっという間に終わろうとしている。
結局、飛行機から降りる直前まで色々と話していた。

「Do you have a social media account? Instagram or whatever.」

別れ際、SNSを交換して握手を交わした。
思いがけない出会いだったが、刺激的な時間を過ごせた。
こんな偶然もまた、一人旅ならではの醍醐味な気がした。

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空港から出ると、カラッとした空気と心地よい日差しが肌を刺した。
12月のオーストラリアは夏だ。
だが、思ったよりも暑いということはなく7時間振りに新鮮な空気を吸った。

時刻は午後3時。
宿に荷物を置いた僕は、早速街に繰り出した。
ホステルを出て真っ直ぐに進むと、港が見えてきた。
Darling Harbour と呼ばれているここには、巨大なオーストラリアの国旗がはためき、その奥にはビルが林立している。
この場所に来て自分でも思いがけず感動してしまった。

空は雲ひとつない快晴。
日差しは強いが乾いた冷たい風が吹いているため、体感温度は26℃くらいだ。
そんな天気の中で、この開放感溢れる景色を見てしまった。

「やば、ここ最高やん」

これまでの人生で感じたことのない気持ちよさに、思わず声が漏れてしまう。
まるで天国にいるかのような気持ちよさ。
そりゃここに移り住みたくなるのも納得だななどと思いながら、港沿いを歩いて行く。

歩いていくと、街のシンボルの一つSydney Harbour Bridge が姿見を表した。
写真で見たことはあったが、実際に見ると想像以上に巨大な橋だ。
そこを、先ほど乗った街と空港を結ぶ電車が走っていて実に「絵」になる光景だ。

橋を抜けるとあの建物が見えてきた。
シドニー・オペラハウス。
オーストラリアと言えばこの建物を思い浮かべるだろう。
実際に見てみると、建物上部の独特なデザインがより際立っていた。
近くにはQueen Elizabeth 号も停泊している。
この最高の天気と合わさって、見るもの全てが感動的だった。

オペラハウスを通り過ぎるとSydney Botanic Gardens に入った。
今まであまり見たことのない木々や草花が生い茂っている。
芝生には寝転がって日向ぼっこをしていたり、パソコンで仕事か何かをしている人もいる。

「なにそれ、最高かよ」

最高の天気の中、自然と触れ合いながら心安らぐひと時を過ごしている人たちがいた。

植物園ならシンガポールにもあった。
あそこは園の一部が世界遺産になるほどだ。

「ニューヨークにもセントラル・パークとかあるし、都会には緑が必要なんだな」

ただビルを大量に建てれば、そこは無機質な空間になるだろう。
人間は本能的にそんな場所を好まないようにできているらしい。
でなければ、わざわざ都会の中に公園や植物園なんて作らないはずだ。
やっぱり僕たちが生きる上で、自然との関係は切っても切り離せない。
だからこそ、守っていきたい。
そう思う気持ちが強くなった。

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東南アジア諸国との違いは、道路を走るバイクの圧倒的な少なさと、街に散らかるゴミの少なさだ。
それに加えて、今日の最高の天気が合わさって、心と身体の芯まで癒された。
街がきれいだと、そこで暮らす人々の気持ちも明るくなって余裕が持てる。
そうなれば、ゴミをポイ捨てしようなんて思わない。
この好循環に入れているからこそ、ここは住みよい街なんだろう。
ここまでに訪れた東南アジア諸国も、いずれはそうなって行ってほしい。
人々の意識が変わっていくのには時間がかかるかもしれないが、世界中がそんな場所になったら最高だなと思った。

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泊まっているホステルでは、朝食と夕食を無料で提供してくれていた。
この日の夕食は宿のシェフお手製のチキンライスをありがたくいただき、夕暮れ時の街を散歩することにした。

先ほどと同じ道を通って港に向かう。
桟橋まで来ると、港沿いでエクササイズをしている集団を発見した。
クリスマスソングに合わせてランニングをしたり、アキレス腱を伸ばすストレッチをしている。
みんなで肩を組みながら音楽と共に楽しげにエクササイズする姿に、見ている僕までほっこりした。

港沿いにはバーやレストランが並んでいる。
そこから聞こえてくるテンションの上がる音楽や、陽気な笑い声に、幸せな気持ちをお裾分けしてもらった。

ここの人たちは幸せそうだな

細かいことは気にせず、ポジティブに楽しんでいる。
そんな印象を受ける。

「オーストラリア、めっちゃいいところだ」

実際に来てみて、なぜこの場所が人を惹きつけるのか分かった気がした。

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