動かない時計(朗読:かすみみたま様)
【動かない時計】
私の実家には古い時計がある。
背の高さは2mを超えている。
グランドファーザークロック、俗にいう「大きなのっぽの古時計」だ。
私の父が生まれる前からあったというから、遅くとも戦後すぐくらいには家にあったのだろう。
祖父がどこからか持ってきたものだという。
買ったものなのか貰ったものなのかはわからない。
実家にある、と言っても物置のようにされた部屋の片隅にある。
もちろんすでに動かなくなっているし、直すつもりもない。
祖父母は亡くなっているから、別に捨ててしまってもよいのだが、誰も捨てようとは言わない。
言いだせないのかもしれない。
残念ながら祖父が亡くなったときに鳴ったとか、家族になにか悪いことがあったときに教えてくれようとしたとか。そういったことはない。
時計は普通に動き、そして普通に寿命を迎えた。
この時計を祖母が、特に祖父が亡くなってから、生前とても大事にしていた。
祖父の代わりと言ってはなんだろうが、キレイに磨き、毎朝話しかけてもいた。
生前にはそれほど仲睦まじい夫婦という感じではなかったが、やはり長年連れ添った分、何か思うところはあったのだろう。
そんな祖母も、3年前に亡くなり、もはや時計の掃除をする人もいなくなった。なので物置にしまわれた。
祖母の子である父はもとより、母もあまりマメではない。物置になっている部屋ではそこかしこにうっすら埃が積もっている。
ところがこの時計、実家に帰るたびになんとはなしに見に行くのだが、今でもキレイなままでいる。
盆や年の暮れなど、年に1度2度しか帰らないから、たまたま大掃除などで磨かれたあとに見ているだけかもしれない。
しかし、この時計を見るときの父母の目は妙に優しく、表情は懐かしいものを眺めているような感じになる。
別段、私もその理由を父母には聞くつもりはない。
私の実家には古い時計がある。
埃の積もった部屋の中で。
キレイなままで今もある。