とある建築現場の監督から聞いた話。
大手の建設会社に勤めていた男性は、もともとはオカルトには半信半疑の人だったらしい。
ただ、とある工事をきっかけにすっかり信じるようになってしまった。

その工事は5階程度のあまり大きくはない会社ビルの建設だった。
工期通りに工事は進んでいて、ビルの基礎、つまり土台ができれば、あとの工事も順調に進むだろうと思われていた。
そんなときだった。
ある一区画が、雨が降ってもいないのに、水浸しになっているのが見つかった。
もっとも地面を掘る工事で水が染み出てくるということは珍しくはない。地質調査はしていたので、想定内のトラブルとしてできる手段を男性は順番に試した。
ところが、予想に反して一向に水は引かなかった。
そもそも水がどこから流れ込んでいるのかすら全く分からなかったという。

濡れたままで基礎を作る工事を続ければ、後々重大な欠陥につながる。
当然、工事を続けることができず、関係者一同が途方に暮れていると、工事責任者である所長が、ポツリと「祈祷師でも呼んでみるか」と呟いた。
その所長にはかつて同じような経験があって、そのときも、最後の最後、ほとんどやぶれかぶれで祈祷師を呼んだところ水がピタリと止まったらしい。
まさかと思いつつも男性は、ダメでもともとだと承諾し、祈祷師が来れる日まで工事を止めることにした。

結局、祈祷師がきたのは一週間後だった。普段は会社勤めをしている祈祷師の男性は、たしかに一見してはごく普通のサラリーマンに見えた。
ところがこの祈祷師、工事現場の入り口に立ったところで、中も見ずにある一点を指さした。
「ここ、霊道になっていますね」
それはまさに問題の区画だった。
祈祷師が言葉をつづけた。
「地下で水が通っているところってもともと霊道にはなりやすいんです。地上からは見えないからあまり問題になることはないんですけどね。よくあるんです。こんな風に工事をして霊道を掘りあててしまうこと」そう言って、祈祷師は笑った。
「道を少しずらしてみます。ただ、道はまた戻ることもあるので、あまり悠長にしない方がいいと思いますよ」
祈祷師の言葉通り。彼が儀式らしきものをして帰ると、拭いてもいないのに、すっかり水が引いていたという。
男性はその後、大急ぎで工事をすませ、無事にビルを建てることができたらしい。
「地鎮祭とか水神際とかあるけど。あれ、バカにしない方がいいと思うようになったよ」と男性は言った。
「お金の無駄だってケチる人も最近多いけど、そのたび、おっかなびっくり工事しなくちゃいけないこっちの身にもなって欲しいとは思うね」
そう男性は大きくため息を吐いた。

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