充分ではない(短編怪談)
祖母と私はともに霊感らしきものがあった。
あくまでそれは「らしき」ものだった。
例えば道を歩く血まみれの女性の幽霊が見えたりとか、首のない青年が駅のホームで頭を探していたりとか、そういう光景が見えるわけではない。
どことなく、あそこに行ってはいけない気がするとか、今日は大事な電話(だいたいの場合は悪い知らせ)がくるから外出しない方がいいとか、そういうことが分かるだけだ。
じゃあどうすればいいのかとか、除霊はどうするんだとか、そういうことは一切分からない。
祖母も私もお互いがお互いに同じ感覚を持っていることが分かっている。
だけど、一切、その話をしたことはない。
感じられるだけじゃ充分じゃない。
どうにかできないなら、「分かる」だけ襲われる可能性が高くなるだけ。防ぐことも抗(あらが)うこともできないのに相手には好まれてしまう。
言葉として口から出してしまって「何か」に聞かれたらと思うと、ちょっとした会話にすることさえできない。
口にしてしまうと気づかれる。
だから、私の家に母がいない。