これは俺が年上の従兄弟から聞いた話。
従兄弟がある霊園で働いているんだけど、ある年警備員が夜、墓地を巡回することになった。
「肝試しに来て余計なことをする若者たちがいてね」
墓地で花火をしたり、勝手に飲食をしてごみを捨てて帰る人はもともといたけれど、その年は特に多かった。
従兄弟も正直今更だよなと思いつつ、巡回が始まることは歓迎していたらしい。
ところが、あるとき妙なことに気が付いた。
頻繁に警備員さんが変わっている。数日同じ人が来たと思えば別の人、また数日来たと思ったら別の人。
警備は警備会社に委託していたから、毎日別の警備員がきたとしても問題はない。
しかし、それにしても変わりすぎに思えた。
そんなにコロコロと人を変えたら仕事の説明だっていちいち面倒だろう。
そう思って上司である事務局長に何気なく訊ねると、局長は少し渋い顔になり「あまり言いふらすなよ」と前置きをして、理由を教えてくれた。
なんでも、少女の霊が出るのだという。
それがいわゆるイマドキの女の子の霊らしかった。
「短いTシャツに、ジーンズのショートパンツ。セミロングの茶髪にサンダル。いかにも若者が思いつきで肝試しに来ましたって格好をしているんだが、警備員がその子を追いかけても一向に追いつくことができないんだと。それどころか。あの、わかるか、丘の上に林があって、夜になると真っ暗になるところ。あそこに誘い込まれて、そこで一切の明かりが急につかなくなるらしい。懐中電灯もスマホも全部」
そんなことになったらきっと道に慣れている自分でもパニックになる。まだ不慣れな警備員はもっとパニックになるだろう。
局長も従兄弟の言葉に頷いて
「パニックになって必死に休憩所に戻ろうとする、辛うじて見える休憩所の明かりを頼りにな。すると背中から『また来てね』って言われるんだそうだよ」
なるほど、それは自分でももう一度来たいとは思わない、と言いかけて疑問を口にした。
「うちの人間は誰も見てないんですか?」
従兄弟の疑問にも局長は首を縦に振った。
「俺もここに勤めて長いがそんな話一度も聞いたことがない。女の子が事故で死んだって話もない。近隣の交通事故も含めてな。なんならこの間、その林に行ってみたけれど怪しいものは何もなかったよ」
いっそ、誰か埋められているかと思ったと局長は苦笑いを浮かべて言った。
「場所が場所だけに身に覚えがないとも言えないが、来園者にも警備員にも何の被害もなかったからな。こっちではどうしようもないだろう」
一応おはらいだけはする予定だ、と言っていたけれど、それもいつのまにか終わっていたそうだ。
次の年からは警備員の巡回も止めてしまった。一度は頼もうと思ったのだけれど、向こうから断りの電話があったらしい。
さすがに別の会社に依頼してまで続けようという話にはならなかった。
だから同じ人がもう一回行ったらどうなるのかそれは分からない。