田舎の神社の巫女(774文字)
私の母方の田舎の話。
その村はもうほとんど限界集落です。
学校の数は一つ。小学校と中学校が一緒です。
高校はもう電車で通うか、寮に入るかしかありません。
小さな商店が一つ。なんでもありますが、何もありません。
病院の数も一つ。あとは町に出るしかありません。
「車に乗れば1~2時間でだいたいなんでもあるから不便はない」と祖母は言います。
そんなものかと思うようにはしていますが、母はもうここには住めないと言います。
とある神社が一つあります。
さぞボロボロになった神社だろうと思われるかもしれません。
意外にも小ぎれいです。
静謐(せいひつ)で清浄な空気に覆われています。
神社には若い巫女がいらっしゃいます。
キレイな方と言おうと思えば言えるでしょうか。
一番きれいな顔は全ての顔の平均点なのだという話を聞いたことがあります。
つまり、そんな感じの方です。
良く言えば整っている、はっきり言えば特徴がありません。
水面のような顔をされている方です。
口数は多くはありませんが、暗いということはありません。
声は小さくはありますが、聞きとりにくくはありません。
思いが表情に出ることはありませんが、無表情ではありません。
声に抑揚はありませんが、とても柔らかい空気を醸(かも)しだします。
昔、家族にその方の話をしたことがあります。
祖父に話すと何とも言えない顔をしました。
母に話すと最近は会ったことがないと言いました。
祖母に話すと何も言わずニコニコとしました。
父とは一緒に会ったことがあるはずなのですが。
父は一切覚えていません。
最近またその話を祖母にすると、祖母は「あの方は村人を守る人だから村人以外には見えないんですよ」
とだけ言いました。
祖母の田舎はもうほとんど限界集落です。
母が子供の頃からそうだったようです。
でもきっと、これからもずっと、無くなりはしないんじゃないかなと私は思うのです。