誘導棒 (朗読:かすみみたま様)
とある警備会社で先輩から聞いた噂話だ。
まずは誘導棒を知っているだろうか?正式には赤色灯というらしい。
道路工事の現場に遭遇したことがあるだろうか?たとえなくても、警備員や警察官が振っている赤く光る巨大なペンライトみたいな棒、と言えば何を指しているかは分かると思う。
進行方向に向かって棒を振っていれば行って良し。
相対する形で棒を横にして突きつけられていたら止まれ。
シンプルに言えばこの二つの動作を主に使って車や歩行者を誘導する。
この誘導灯、昼間にスイッチを入れたところで全く光らない。正確には光っていても、遠目には違いが分からないくらいの光しか発していない。
当たり前だが、昼間でもわかるくらいに煌々と点(とも)るような仕様では、夜間使うときにまぶしくて仕方ないからだ。
ところがこの警備会社では、現場を問わず、時々昼間でもまるで夜に使っているときのように赤々と光る誘導棒が目撃されている。
誰が振っているのかは分からない。
中肉中背の警備員らしく、当然同じ制服を着ているので遠目にはほとんど他の隊員と区別がつかない。
共通して言えるのは、最初に警備員が配置されたどの位置でもないところにいるということと、その警備員が棒を横に、つまり止まれとしているときは次に来る車を絶対通してはいけないということだけだった。
もし万が一通してしまうと例外なく事故が起こると言われている。
『事故を止めろ』の合図だから、素直に従ったほうが身のためだ、とこの話を教えてくれた先輩は言いそしてさらにこう続けた。
もしこの警備員が棒を振っている、つまり「いってよし」の合図をしていたら、たとえどんな場面でも全力で今来ようとしている車を止めろと教わった。
もしその車を行かせたら必ず死亡事故が起こるというのだ。
「逝ってよし」の合図。
まるで冗談のような話だが、実際、この合図の存在を知らなかった新人が車を通して、大事故になったことがあったという。
果たしてこの警備員の正体が誰なのかは、どうやら本当に誰も知らないということだ。