自殺妄想堕天使化_2024/06/16
何をしても消えないモヤモヤをどうにかして掻き消そうといつもより多めに薬を飲んで出掛けた人間最後の日のこと。
特に何も考えず、ふわふわと舞い上がった気持ちで栄えた夜の街を彷徨った。
薄暗くて汚らしいこの場所で光を放つネオンライト。
サブカルチックな服を纏った背の高い人達に声をかけられちらりと見上げてから無視してまた歩き出す。
あの人たちが何か後ろから何かを言っていた気がしたけれど私の耳には届かなかった。
“死にたい”としか感じなかった。
鈍く輝く深い夜の路地裏を抜けて駅へと向かい、乗り継ぎ続けて目的地であったバス停に向かう。
時間が経つにつれ増していく浮遊感。
足取りは重くなっていく。
突然私に襲いかかった眠気が昨夜の記憶を呼び戻した。
家の中で自分の喉に鋭い刃物を押し当てていた。
ジリジリと刺さって進んでいく刃は血が出始めたと同時に止まる。
手が震えて上手く入らなくなったのだ。
私に残ったものなんて何もない
お父さんもお母さんも、お金だけ置いてそのまま姿を消した。
つまり私は捨てられたも同然。
要らなかった。必要なかった。必要とされていなかった。
この先生き続けたって言葉に表せない哀しみと絶望感が薄れることはないだろう。
時間が経てばの問題ではないのだから。
そのほかにも私を蝕む希死念慮。
これも同様薄れることもなく増していくだけであろう。
だったらもう死んでしまいたかった。
私は__.
はっ、と目を覚ますとそこはもうどこかわからなかった。
運転手さんも暇そうにぼけーっとしていた。
残高が1000円近くあるICカードを使って運賃の支払いを済まし外に出る。
よく見ると遠くの方に海が見えた。
一先ず海を目指して歩いてみる。
しばらく歩き続けてすん、と匂いを嗅ぐと土と潮が混ざったような香りが鼻を刺した。
薬のせいもあって吐き気がする。
かなり危うい意識でできるだけ高く、できるだけ海に近い場所を目指した。
私が背負ったバッグの中には少しの現金が入れられたお財布とペットボトルに入れられた水、大量の薬、カッターやカミソリ、そして遺書。
身につけている所持品はお気に入りのブラウスにスカート、厚底、いつもつけていた髪飾りとネックレス。
突然強い風が吹いてぎゅっとバッグの紐を握った。
前を見ると崖っぷち。
そのさきに広がった大きい青い海。
夜なのだから当然景色は悪い。
青い海にちらっと見える星屑、そこに1人でいる私。
だがどれだけ景色や空気が悪くても黒く澱み負けずと燻むような心の汚さを持った私はよく映えるだろう。
そう勝手に思い吹き出す。
すうっと深呼吸をして目を瞑る。
なんとなくひんやりとした澄んだ空気が私の熱った体を包み込んだ。
ポツ、っと頬に何かが落ちる。
空を見上げるとまるで星が降ってきているかのように雨粒が降ってきていた。
次第に私の黒い目に透明な雨が溜まる。
自然と口角が上がる。
私はもう死ぬんだ。
私は生きるべきものではなかったんだ。
初めからきっとそうだった。
海の向こう側で誰かが手を差し伸べている気がした。
「貴女の居場所はここだよ」
というように。
靴を揃えてその脇に“手紙”をおく。
もう一度息を吸い込み身軽になった体で一歩前に進む。
「…ばいばい。」
ふっと笑った瞬間、背中に羽が生えたようにふわりと宙を舞った。
黒くて大きな、私にぴったりな羽根。
そのまま私の意識は暖かい方へと飛んでいった。
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