見出し画像

一生一緒。_その後

2人で海に堕ち世から絶ち去ったあの後。
私達は沢山の綺麗な華や可愛い動物に囲まれ幸せを謳歌していた。
あの日までの息苦しさが嘘みたいに息しやすくて、逆に怖くなってしまう。
こんなに幸せな日々を送っていいのか、と。

「 みてみて!花冠〜! 」

余計な事が頭を過ぎり、不安に晒されていた私の目の前で “ 白いアザレア ” の花冠を見事に作り上げ、無邪気に笑う彼女の笑顔をみてその不安は掻き消された。そして今日も癒される。
ふわっと私の頭に冠を乗せて、満足そうに頷く。
私も何かをプレゼントしたいと思い辺りを見渡した。
すぐ近くに “ アスター ” と呼ばれる花が咲いていて、紫が良く似合う彼女にピッタリだと思い摘み取った。小さな指輪を作り、彼女の指にささっと通す。
それを見た彼女が “ 可愛い〜… ” と頬を緩ませその花指輪に軽く口をつけた。

「 ちょっと、いくら可愛くて綺麗な花でも口元に運んじゃダメでしょ!? 」

慌てる私を見てクスクスと笑う。
そしてこつん、とお互いの額を合わせてから

「 かわいーね。 」

と言われてしまった。
彼女の綺麗な瞳の上目遣いは危険だ。
可憐で、その瞳に取り込まれそうになる。
一緒に世を絶った私達の距離は、この世に来てから更にぐっと縮まったと思う。
容赦なく詰めてくるようになった。というか。
持っていかれそうになった意識を戻し彼女に言い返す。

「 はあ?私より貴方のほうが何倍も可愛いけど? 」

1度死んでも変わらないこの口調は生まれ持ったもので、治しようがないのだろう。もう断念した。
付き合いが長いだけあり私の口の悪さを分かりきっていて何も無かったように話を流した彼女は “ 引っ掛かったな ” と言うかのようににやっといやらしい笑みを浮かべ、ごく自然に私の首に手を回した。
そして態々目線を合わせ

「 そういう姿も可愛い。あたしは好きだよ?」

と追い討ちを掛けてきた。
ばくばくと高鳴る心臓の音が煩い。
こんなにも鼓動が激しいのはあの夜以来だろう。
いまの距離に居た堪れなくなり目線を背ける。
顔を逸らした私に不満を持ったのか半ば強制的に見詰めるようにさせられてしまい、私は赤面し言葉を詰まらせた。

「 ねえ、このままキスしてあげよっか? 」

にこっと笑った彼女の言葉にきゅっとなる。
容認も拒否もせず真っ赤な顔をしたまま見詰める。
沈黙が続く中、恥ずかしくなったのであろう彼女はじとっと睨むように目を合わせ続けている私をみてはぐらかす。


「 …冗談よ……っ! 」


微かな暖かい温もりを感じそれと同時に落ち着きのあるはずの彼女の鼓動がいつもの倍速く脈打っていた気がした。
普段から私より高い目線の位置に立っている彼女。
それなのに今だけは同目線になっていた。
無自覚にも彼女の美しい顔立ちに見惚れてしまう。
見れば見るほど愛らしく、そして綺麗に見える彼女は魔性の女的な魅力があるのだろう。
恥ずかしくありながらもこの現状がなんとなく心地よかった。
しばらくこうしていたい。それしか脳裏になくて私は彼女から離れられなかった。

考えるよりも先に彼女の体へと手を伸ばしていた。そして気がつけば彼女の細い手首を不本意にも掴んでしまっていて。
焦りを隠せず誤魔化すように笑おうとした彼女の手首を私はもう一度強く握り直し、そのまま下にずいっと引き距離を縮めていたのだ。

「 …私からするのもあり、でしょ? 」

口をそっと離してから自身の唇を指差し、余裕振ってにっと笑ってみせる。
平然とした立ち振る舞いを見せているが内心はとても恥ずかしい。
私の照れ隠し演技を含め滅多に見ない仕草等に罵倒されたのか言葉も出ない様子でただ必死に頷いている彼女がいた。
もうそろそろ良いだろう、と思い、離れるためにそっと立ち上がる。
その直後軽く手を引っ張られ、驚き振り向くと頬を真っ赤に染めた状態で上目遣いをし “ 離れないで ” と小さく訴えてくる姿が目に映った。
弱々しい彼女を見るのはかなり久々で少しきゅんとしてしまう。
そしてふと過去のことを思い出す。


( そういえば死ぬよりずっと前に
          『 死んでも離れないで、あたしと居て 』
                                                           って言われたな… )

なんだか懐かしい気持ちになって1人ふふっと笑い声を漏らす。
隣で不思議そうに首を傾げ困惑している彼女は “ 純粋です。” と言っているかのように可愛い。
何も無いのに頭の上にクエスチョンが現れ、沢山飛び交っているような幻覚という名の妄想まで見えてしまった。
そんな自分の思考回路が可笑しくて、もっと笑ってしまう。
そしてふぅーっと息を吸い、吐き出し。
笑いを落ち着けてから聞こえるか聞こえないか位の声量で呟いてみる。

「 …死んだって離れなかったでしょ。私達。 」


安定に耳のいい彼女はそれを見事に聞き取り、自分が過去に言ったことを思い出した矢先に表情をぱあっと明るくした。

「 覚えててくれたんだっ…! 」

嬉しそうに頬を綻ばせる彼女の様子を見て安心すると同時に、 “ 一緒に死ねてよかった ” と思った。
私はこの子が居たから生きていただけ。
勿論本人には伝えていなかったが、
この子が死ぬ気なら私 “ も ” 死ぬ気でいた。
けれどこの子は私の遠回しに伝えたことを的確に感じ取り、この楽園に連れて行ってくれた。

「 忘れる訳ないでしょ… 貴方のこと、大好きだし、
     この世の誰よりも愛してるんだから。 」

嘘じゃない。本音だ。紛れもなく私の本心。
いまの言葉を聞いてから何も言わない彼女の反応が怖くて顔も見れない現状。チラッと見ると俯いていた。

( やばいこと言っちゃった…!? )

よく見ると泣いていた。
けれど泣き方を見るに怒りや哀しみはなかったように見え、“ ねえ…? ” と声をかけてみる。
ビクッと肩を揺らしやっとこちらを見てくれた。
ほっ、と安堵の息吐く。

「 よかっ… 」

「 うあああああっ…! 」

私が言葉を繋げようとした途端、幼い子のように泣きじゃくった。
どうやら私の吐いた本音が嬉しかったらしい。
一方的な愛だと思い込み続けていたから、余計に。
確かに今まで伝えてこなかったな…と心の中で1人反省する。
中々泣き止む様子が見受けられず、どうすればいいのか悩んだ末ぎゅっと優しくハグをした。
数分後、呼吸が少し落ち着いた気がして改めて顔を見詰める。
きっと泣き顔は見られたくなかったのだろう。
必死に背けようとする彼女の姿が何時か見た猫に似ていて吹き出す。

「 あははっ!可愛いね〜w 」

よしよしと頭を撫でる。
むう…と目を腫らし頬を膨らませた彼女は愛らしくてずっと見ていても飽きない。
綺麗な花が咲き誇る、私と彼女だけの世界。
もう一度、ちゃんと伝えようと思った。



「 ねえ、好きだよ。 」



ふっ、と笑い、近くに咲いていた燃えるように真っ赤な “ マーガレット ” を彼女の口元に持っていく。
花に詳しい彼女はその意味を直ぐ様理解したようで。

「 あたしも好きっ…! 」

と涙で濡れた瞳を揺らしながらも笑って返してくれた。
花を受け取り、その花で顔を隠すように私達2人の顔に近づけた。
突然近付いた綺麗な顔にどきっと胸が鳴った。
そのまま軽く私の口元を彼女が吐息ともう1つの動作で濡らした。
先程私からしたものとは少し違くて、くっついた時間は短かったのに更に暖かく感じた。
すっと顔を離した彼女の耳は赤くなっていて、やはり恥ずかしいのかと笑う。
そんな私の姿をみて彼女もふはっと笑い出した。
風が共鳴するかのように、暖かく優しく吹いた。
あの日の夜のように靡く
彼女の黒くて長い、綺麗な髪。
海で見た彼女とは違う儚さと美しさがあった。

( やっぱり、この子は綺麗だな… )

少し悲しくなった気がしたが、そんな気持ちはこの子の持つ魅力とこの素敵な花畑が一面に広がる世界によってすぐに掻き消された。

「 あたし、君と出逢えて本当によかった!! 」

えへへ、と照れくさいと言わんばかりの雰囲気を保ち笑う彼女の頬に、もう一度私からキスをした。
そして最後に、こう伝えた。



「 私も貴方と出逢えてよかった。 」


私なりの愛の伝え方で
最愛なる彼女へ愛を伝えた。
命を絶ち泡と共に散った私達は、
お互いの幸せを花吹雪と共に舞った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?