超スマート社会時代の産業構造を読み解く
2017年に三井業際研究所の研究委員会「三井グループが考える超スマート社会」に参加したときに書いた報告書の一部。Society5.0をどう捉え、ビジネス機会を生み出すか1年間研究活動をした時に担当したパートです。
序文
メガトレンドでみてきたように、共有資源(コモンズ)を専有的中央集権的に支配する封建的経済から、徐々に市場経済、資本主義経済に移行し、そして資本主義経済からいままさに協働型経済ともいうべき新たな社会構造にパラダイムシフトしつつある。
また、社会構造の変革には常にテクノロジーの変化が伴い、相互作用の中で産業構造も大きく変容してきた。社会構造に大きな影響を与えたテクノロジーとして、蒸気機関や内燃機関、電信電話、コンピュータネットワーク、マイクロプロセッサなどが挙げられるが、このような新たなテクノロジーを主体とする産業が従来の産業を呑み込んで発展してきた経緯が歴史の中に見て取れる。
社会構造と産業構造がまるで二重らせんのように絡み合い発展していきながらも、そのベクトルは一定の方向を向いていると言える。ジェレミー・リフキンやエイドリアン・ベジャンは、それらは熱力学の法則に従っているとしており、エネルギーだけでなく、物体や生物や地形や社会構造、文明含めて「あらゆるものは流れを良くために進化する」としている。
しかし、流れを良くする方向で社会構造と産業構造の進化が起こる際には、転換期特有の歪みが生じることがある。1911年ごろイギリスで起こったラッダイト運動は、産業革命にともなう機械使用の普及により、失業を恐れた手工業者・労働者が起こした機械破壊運動であった。
現代においても、米国内の702の職種がAIなどコンピュータ技術の発達によってどれだけ自動化されるかを分析した結果、今後10~20年で米国の総雇用者の約47%が職を失う恐れがあるというレポートもあり、テクノロジーの違いはあるにしても20世紀初頭と変わらぬ歪みが生じつつあることは確かである。
雇用問題に限らず、転換期特有の歪みが「ディスラプション」としてすでに様々な形で出現していることは疑う余地がない。
また、日本における超スマート社会を考える上で、日本が先進国で真っ先に人口オーナス期に突入し、少子化、超高齢化が経済成長を低迷させている問題を避けて通ることはできない。人口問題および個々人の健康問題は、人の流量や速度、経路が高度成長期から大きく変化したことを意味し、より良い流れの構造を決める要素であるとともに、価値基準の変化を伴った「人中心」の超スマート社会の在り方を考える上でも重要である。
第3章では、社会構造と産業構造の進化の根幹をなすエネルギーの流れ、情報の流れ、人と物の流れ、資金の流れなど様々な”流れ”に着目し、ディスラプションを乗り越える解決策を3つのテーマ「正しく無駄なく確実にモノを届ける」「健やかな暮らしを送るために」「レジリエントな社会資本」について調査・検討を行った。
References
『限界費用ゼロ社会』ジェレミー・リフキン
『流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則』エイドリアン・ベジャン&J・ペダー・ゼイン
”THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?” Carl Benedikt Frey† and Michael A. Osborne September 17, 2013