リンク薬局ができるまで (6)
不安要素
その空きテナントは元薬局で、1週間ほど前に移転したらしい。
内装はそのまま使える。
元薬局なので保健所の検査もクリアが容易だ。
薬局の向かいがお花屋さん、下が天ぷら屋さんの薬局なんて近畿厚生局も何も言わないだろう。
僕の希望条件は全て揃っている。
契約しないという選択肢は残っていない。
ただ、ここにきて大きな不安が僕の頭をよぎる。
「門前なし、施設なし、患者数ゼロから本当にやれるのか?」
判断が鈍ってきた。
そこで僕は友人に紹介してもらった5店舗?薬局の運営している経営者に相談することにした。
大先輩の時間をもらって僕の話を聞いてもらう訳で、ただの飲み会ではない。
1分も無駄にはできない。
僕は作ったこともない創業動機と事業計画書を何日かかけて書き上げ、持参した。
銀行目線
「これでは融資は通らないな」
それが大先輩の見解だ。
少し話が逸れる。
僕は昔、薬局の同僚に
「将来はカフェでパソコンをカチカチやって、ちゃちゃっと終わるような仕事がしたいなぁ」
と話したことがある。
その時に返ってきた言葉が今でも忘れられない。
「先生は夢見る夢子ちゃんですね」
根に持っているわけじゃないし、怒ってるわけでもない。
ただ、僕はリアリスト(現実主義者)だと自分では思っている。
融資の話に戻す。
半年後に調剤報酬改定を控えている。
薬局の売り上げは間違いなく落ちる。
薬局も門前の患者さんだけでは厳しくなっていくだろう。
人口減少に伴い、発行される処方箋枚数も減っていくだろう。
施設在宅もこれからは削られていくだろう。
後発加算も基準調剤加算(当時)もなくなるかもしれない。
そんな危機感を踏まえた創業動機、事業計画を立てた。
現実的な資料だ。
「お金貸す側の気持ち、考えたことある?
薬局業界がシュリンク(縮小)していくって言われて、お金貸そうと思う銀行ある?」
目が覚めるような一言である。
僕は赤面した。
未熟さが一発でバレた。
でも、これが先輩でよかった。
銀行だったら、融資が受けられなくなるところだった。
その先輩は続けて言った。
「独立したい気持ち、開局したい気持ちはわかるけど、あまりにリスクが高過ぎる。
もう少し待てば、小ぶりの譲渡案件も出てくるだろうから待ってみたら?」
純粋に心配してくれているのがわかった。
有り難い。
創業動機、事業計画に一通りアドバイスをもらい、
僕は40代のだるまさんのように肥えた先輩とハグしその日は別れた。
神頼み
背中を押してくれる人はどうやら現れないようだ。
こうなったら運命に身を委ねよう。
「もし10月末でもそのテナントが空いていれば、
それは神様が僕にそこで開局するように言ってるんだ」
普段はEBMとか何とか言ってるクセに、最後は神様と運に任せた。
ちなみに僕はクリスチャンでもない。
定期的に不動産屋さんに連絡し、空き状況を確認した。
運命の11月…
そのテナントは誰にもかりられることもなく、
僕が賃貸借契約を結ぶことになった。
続く
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