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色と光で詩を描く写真家ソールライター

こんにちはカイです。
アメリカにソールライターと言う
写真家がいたことをご存知ですか?
 
ソール・ライター(1923–2013)は、
カラー写真の先駆者として知られています。
 
彼の作品は、ニューヨークの日常を独特の視点で切り取り、その画面構成や色彩、光と影の使い方は独自性が
とても強く芸術の域に容易に到達した作品ばかりです。
 
私はこの写真家を60を過ぎてから知りました。
様々の写真に出会って来ましたが、どうしてか
氏の作品とは出会って来ませんでした。いや、
出会って気づいていなかったのか。いずれにせよ
人生はまだまだ面白いです。今になって知ることができるなんて。
 
氏の生前は主流の写真界ではあまり注目されておらず、
その評価が大きく高まったのは晩年になってからだと言います。彼の写真は、伝統的なストリート写真の枠を超え、詩的な視点と絵画的な美意識を融合させた独特の世界観を持っています。
 
ここではライターの作品の特徴と写真への向かい方について少し触れたと思います。
 
1.ソールライター氏は先程カラー写真の先駆者と
記載しました

1950年代はまだモノクロ写真が主流の時代でした。
その中で敢えてカラー写真の芸術的可能性を追求したことで先駆者と言えるのです。当時、カラー写真は商業写真や
ファッションの分野で利用されることが一般的で、
芸術作品としての認識はまだ薄かったのです。
 
ライター氏は、こうした常識に挑戦し、独自の方法でカラーを用いました。彼のカラー写真における最大の特徴は、日常的な風景や人物を抽象的で絵画的な構成に変換する能力にあります。
 
例えば、彼の作品には、窓越しの雨粒や街路の反射光、
バスの窓に映り込む影といった、都市の中のささやかな美がしばしば登場します。これらの要素は、ライターの写真の中で単なる背景や装飾ではなく、作品全体の構成を支える重要な要素として機能しています。
 
ライター氏は、過去に画家としての訓練を受けた経験があり、その点で少なからず抽象表現主義の影響を受けていました。そのため、色彩の選択や配置は極めて意図的であり、鮮やかな赤や柔らかな黄色、深い青といった色が、
彼の作品に独特の生命感を与えています。
 
これらの色彩の選択は、現実を記録するだけでなく、
観る者に感情的・感覚的な共鳴を呼び起こします。
 
2.ライターの作品において、光と影の扱いは特筆すべき要素です

氏は、都市の中に生まれる一瞬の光の変化や、影が作り出す不規則な形を鋭敏に捉えました。たとえば、ある作品では、冬の日差しが反射する舗道や、霧の中にぼんやりと浮かぶ車のヘッドライトが、絵画のように描き出されています。
 
ライター氏は、シャッターを押すきっかけは
自分が「興味深いと思うもの」を撮影したと語っています。ただ、彼の「興味」は単なる対象物以上のものでした。彼の眼差しは、光が物質や空間と交わる瞬間に宿る
詩的な可能性を探るものでした。
 
都市の雑踏や喧騒の中で、彼は静けさや孤独を
象徴するような光景を見つけ出し、それを
写真という形で永遠のものとしました。
 
また、彼はしばしば窓や反射面を利用して、視覚的な層を
重ねる手法を採用しました。雨で濡れた窓や曇ったガラス越しに撮影された彼の写真は、現実と夢の境界が曖昧になるような不思議な感覚を与えます。
 
このような手法は、単なる視覚的な技巧ではなく、
都市生活の複雑さや感情の多層性を表現するためのものでした。
 
3.ライターの作品が持つもう一つの大きな特徴は、被写体の選択にあります

氏の写真の多くは、街角やカフェ、バス停といった、誰もが見過ごしてしまいそうな場所で撮影されています。
そこには、特別な出来事や劇的な瞬間はほとんどありません。しかし、氏はその「普通さ」の中に潜む美しさを発見し、それを写真として昇華させました。
 
例えば、彼の写真には、冬のコートを着た人々が街を歩く姿や、傘を差した女性が夕暮れの街角に立つ姿といった、
極めて平凡なシーンが数多く登場します。しかし、ライター氏のレンズを通して切り取られたそれらの光景は、
 どこか神秘的で詩的な雰囲気を醸し出しています。

彼の写真は、私たちが普段見落としてしまうような瞬間に、特別な意味を見いだす力を持っているのです。
ライター氏自身、「私は物事を単純に見ることを好む」と語っています。
 
この言葉からも分かるように、彼は意図的に複雑さやドラマを追求するのではなく、ありのままの現実の中に存在する美を見つけることに注力していました。その結果、彼の写真は非常に個人的でありながら、観る者に普遍的な感情を呼び起こします。
 
4.ライター氏が可能にしたファッション写真とストリート写真の融合

ライター氏は写真家としてのキャリアを通じて、ファッション写真の分野でも活躍しました。1950年代から60年代にかけて、氏はハーパース・バザーやエスクァイアといった雑誌のために写真を撮影し、商業的成功を収めました。しかし、彼のファッション写真は、単なる商業作品にとどまらず、独特の芸術性を持っています。
 
彼のファッション写真には、ストリート写真と共通する即興性や自然な瞬間を捉える視点が見られます。
モデルが完璧にポーズを取った写真よりも、
偶然性や環境との相互作用を重視していた彼のアプローチは、当時のファッション写真のトレンドとは一線を画していました。これにより、彼の作品は型にはまらない新鮮さを保っています。
 
5.ライター氏が持ち得た「静けさ」と「時間」の感覚

ライター氏の写真を語る上で欠かせないのが、「静けさ」と「時間」の感覚です。彼の作品には、都会の喧騒の中に漂う静寂がしばしば描かれています。これは、写真が持つ時間性と深く関係しています。ライター氏は、何気ない瞬間を永遠のものとすることで、観る者に時間の流れを意識させます。
 
特に、彼が撮影した冬のニューヨークの風景には、静けさと孤独が強く感じられます。雪に覆われた街並みや、寒空の下で肩を寄せ合う人々の姿は、時間の儚さと同時に、
都市の中に潜む人間性を映し出しています。これらの写真は、ただ視覚的に美しいだけでなく、観る者に深い思索を促します。
 
最後に

ソール・ライター氏の写真は、日常の何気ない瞬間に宿る美しさを捉え、それを詩的な表現に変換する力を持っています。彼の作品は、観る者に新しい視点を提供し、世界をより深く観察することの喜びを教えてくれます。それは写真集やネットでアップされている写真からも感じ取れます。
 
私自身、氏の写真に触れることによって、
こんな風に目の前の事物を見ることができるのか、
こんな風に感じ取れる人がいるんだと、強く思いました。
 
ソール・ライター氏の写真は、現代に生きる私たちにとっても、日常の中にある美を新な意識と視点を持つことで
新しい何か見つけ得る可能性を教えてくれます。
 
もし、どこかの洋書店や大手書店に立ち寄ることがあれば
一度写真集コーナーへ足を向けて見ることをお勧めします。
 
今回は60過ぎて知り得た素晴らしき写真家ソールライター
についてのお話でした。
 
それでは、またの機会にお会いしましょう。


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