ラグビー選手のフィットネスを高める方法 -有酸素性バイクプログラム①
◆はじめに
ラグビー選手にとっての持久力向上は、試合でのパフォーマンスを高める上で不可欠です。
本記事では、特にバイクを用いたトレーニングプログラムを通じて、選手の持久力を効果的に高める方法について解説します。
ラグビー界では持久力全般のことを"フィットネス"というローカルなスラングで表現しますが、こちらの記事では"キャパシティ"と定義します。
◆バイクトレーニングの理論的背景
キャパシティを高めるトレーニングには様々な方法がありますが、バイクトレーニングは接地の負荷と関節への負担が少ないため、怪我のリスクを抑えつつ効率的に心肺機能と筋持久力を高めることができます。
以前の記事で述べたように走行距離の"バジェット"が決まっているラグビー選手にとって、そのバジェットを浪費せずにキャパシティを高めることができるのは非常に魅力的です。
もちろん体力と時間は費やすので、その投資をしてもキャパシティを高めるニーズのある選手は積極的に採用したいプログラムです。
またキャパシティを構成する要素には、大きくわけて
・有酸素性
・無酸素性
の要素があります。
特に有酸素性のキャパシティが低くボトルネックになっている場合は、向上させるために一定の実施時間を要したプログラムを実施する必要があります。
強度が低くても一定の長さ(1回20分で週あたり合計60分など)のプログラムを実施することで、走行距離のバジェットをかなり費やしてしまいます。
そういったバランスを鑑みると、"有酸素性のキャパシティを高める最善の方法"が低速度のジョギングだとしても、手札として選ぶにはリスクとリターンが釣り合っていません。
現場において重要なのは、学術論文で効果的とされているプログラムを杓子定規に当てはめることではありません。
いくつかある Better なプログラムを、チームまたは選手の文脈とニーズに合わせて選ぶことです。
ポイントは、必ずしも試合における運動形態に似せたプログラムを実施する必要はない、ということです。
持久力のプログラムはボトルネックとなる要素へ重点的にアプローチすることが効果的です。
Worst Case Scenarioへのアプローチは、試合において最も強度が高い要求のある時間帯への耐性を養うことであり、キャパシティの土台を作る作業と同じではありません。
バイクを利用したプログラムの強みと、ラグビー選手を取り巻く状況を鑑みて、有酸素性のキャパシティへのアプローチは有用性が高いと個人的には考えています。
◆キャパシティの評価
プログラムを実践するまえに、現状を評価します。今回の記事では有酸素性のキャパシティ評価と改善プログラムについて紹介します。
ラグビー界では"Bronco Test"や"1km Time Trial"が有名ですが、それらの評価と似たような要求の"Wattbike 4km Time Trial"がオススメです。
実施時間は男子の高校生〜社会人で概ね5分から6分の間になります。
また、Wattbikeがない環境であれば5分間で何m漕げるか?を最大努力で実施するかたちでも構いません。
5分間で漕いだ距離からm/sを算出し、それを基準にしてプログラムの強度や量を決めていきます。
この速度を
MAS 最大有酸素性スピード
といい、MAS100%の速度から速度を相対的に上下させたり、運動時間のみならず休息の方法や長さをコントロールします。
MASを測定したバイクと、プログラムを実施するバイクはメーカーと機種が一致するようにしましょう
◆ バイクトレーニングの実践
有酸素性のバイクトレーニングプログラムは下記の通りです。
・有酸素性 低強度
①Long Slow Distance
心拍数130から150をキープ
1回につき30分以上 連続で漕ぐ
週に150分を3日以上に分割して実施
・有酸素性 高強度
①Wattbike 10km Time Trial (目標14-16分)
②Wattbike Euro Fitness
Bike Euro FitnessはWattbikeの
Workout Tests → Create New Workout → Intervals - Distance
から作成できます。
作成したプログラムは
Workouts/Tests → Favourites
から選択できます。
◆プログラムの設定
実際のプログラム作成にあたっては、以下の点を考慮します。
・個々の選手の体力レベル
選手の現在の体力レベルに合わせて、トレーニングの強度を調整します。
MASを基準とした設定は以下の通りです。
・週間トレーニングスケジュール
バイクトレーニングを他のトレーニングとバランス良く組み合わせ、過負荷を避けます。
・目標とするキャパシティ
Game Demandsを基準として選手のポジションや役割に応じ、どの種類の持久力を重点的に鍛えるかを決定します。
前述の低強度、高強度のプログラムを1ヶ月のモデルにするとこのようになります。
◆効果測定と調整
バイクトレーニングプログラムの効果を測定するためには、定期的なパフォーマンステストを行うことが重要です。
4km Time Trialなどを通じて、選手の持久力の向上を定量的に評価します。
また、選手の疲労度や体調をモニタリングし、必要に応じてプログラムを調整します。
◆まとめ
バイクトレーニングは、ラグビー選手のキャパシティを向上させるための効果的な手段です。
適切に計画されたプログラムを通じて、選手たちは試合での持続的なパフォーマンスと怪我のリスク低減の両方を達成できます。