マンチェスター・ユナイテッドの復活を感じた2試合【第12-13節vsスパーズ・チェルシー】
はじめに
21-22シーズンを6位でフィニッシュし、これで5季連続で無冠でシーズンを終えたマンチェスター・ユナイテッド(以下マンチェスター・U)。
シーズンオフにはアヤックスで指揮を執っていたエリック・テン・ハーフを新指揮官に招聘。そのアヤックスからはアントニーとリサンドロ・マルティネス、更にはクリスティアン・エリクセンも獲得。
22-23シーズン、マンチェスター・Uは現在5位(12月18日時点)です。
5位というと微妙ですがシーズン序盤で、4位のスパーズとの勝ち点差は3。
3位のニューカッスルとは4。まだまだ分かりません。
そして何よりも言いたいのは、今のマンチェスター・Uはサポーターに「このクラブを応援したい!」と思わせるサッカーをしています。赤い悪魔のエンブレムを胸に、プライドと情熱を持って、タイムアップの笛が吹かれる最後の瞬間まで全力でプレイ出来ています。
そして、マンチェスター・Uが復活したと強く感じたのが、「第12節対スパーズ」と「第13節対チェルシー」の2試合です。
マンチェスター・ユナイテッドのサッカー
テン・ハーフの率いるマンチェスター・Uのサッカーは、かなりざっくりと言えば、「ピッチ上の11人すべてが一体となってハードワーク」しないと成り立たないサッカーです。
ボールを保持している局面でも、全員が数手先の展開を想定して動いています。ボールを奪われたら即座に奪い、その時点で既に次の攻撃の形ができています。
この記事では、「マンチェスター・Uが如何にして戦ったか」というところに主眼を置いて描いていきます。
第12節 vsスパーズ戦
カゼミーロという基準点
まずラインナップからいきます。
マンチェスター・Uはカゼミーロの存在がプレス&カウンター・プレスの場面で効いていました。
スパーズが後方からビルドアップするときは、ドハーティが右SBの位置にデイビスは左SBの位置にロメロとダイアーが2CBの位置にスライドして4バックの様な形。これはマンチェスター・Uの前3人(ラッシュフォード・サンチョ・アントニー)のプレスをかわす為です。
ラッシュフォードは、2CBのロメロとダイアーにプレス。
サンチョは主にロメロやSBの位置にいるドハーティを見ながら、ドハーティにボールが渡るとすかさずプレス。左SBのショーと連携して挟み撃ちのようにボールを奪いにいきます。
アントニーはサンチョに比べると、それほどプレスには行かずに「ダイアー・デイビス・ホイビュルク」の三角形の中心の立ち位置。
フレッジは高い位置から早めにプレスをかけ、主に右CMFのベンタンクールに対して、余裕のある状態でボールを持たせないように動いてました。場合に応じてロメロやビスマ等にもプレスに。フェルナンデスは徹底してDMFのビスマ。
ダロトはペリシッチを見ていて、マルティネスとヴァランはそれぞれケインとソン・フンミンをマーク。
もう一人のボランチのカゼミーロは、中央の低い位置で誰に対しても即座に反応できるように構えていました。このカゼミーロが中央で基準点となることで、柔軟に立ち位置を変えるスパーズに対して、彼よりも前方の選手達のプレスやマークの受け渡しもスムーズに行えていました。
カウンター・プレスの場面でも、カゼミーロが中央で待ち構えて、そこを基準に選手達も素早く適切に判断・対応出来ていました。この基準点があることで、ようやくテン・ハーフのサッカーが浸透したなという印象です。
守備が機能しだすと、自然と攻撃も活性化します。
フレッジやアントニーが早い時間帯からミドルシュートを打って、「ガンガン攻めていくぞ」という姿勢が明確に見えたのが大きいです。
今までのマンチェスター・Uの悪いパターンとして、「結局やりたいことを出来ずに不完全燃焼で試合が終わる」ということが、昨シーズンから多々ありました。観戦しているサポーターとしても、選手の闘志が上手く伝わって来ず、見てて気持ちがノッてこないというか、応援する甲斐があんまり無いという感じでした。
この試合はそれらが正反対に(良い方向に)転じて、試合を戦う選手達の「勝つぞ!」という意志も見てて分かりましたし、オールド・トラッフォード全体が盛り上がっていたなという印象です。
11人のチームワーク
カゼミーロの効果の話をしましたが、この試合はマンチェスター・Uの11人全員のチームワークが取れていました。
左のルーク・ショー、右のディオゴ・ダロトの両SBは守備では即座に戻ってスパーズのサイド攻撃を封じきりました。攻撃でもこの両SBがオーバーラップしたり、時には中央寄りにポジションを取って味方のサポートをしたり。自陣を攻め込まれる場面でも、敵陣を攻め込む場面でも、しっかりこの2人が画面に映っていました。それだけ走りまくっていたということですよね。
スパーズのケインとソン・フンミンのお馴染み強力2トップに対しても、ヴァランとマルティネスがしっかりマークについていました。もちろん最後にはキーパーのデ・ヘアがいます。サンチョ・ラッシュフォード・アントニーの前線の3人も守備で手を抜いていませんでした。
攻撃面で特に見えたのが、さっき書いたようにミドルレンジからでも「まずはシュート!」という意志でした。前半終了時点でマンチェスター・Uのシュート本数は19本(枠内5本)。ちなみにスパーズは5本(枠内1本)でした。
前半こそスパーズのGKウーゴ・ロリスが好セーブを連発したり、惜しくもシュートが枠を逸れたりと得点はできませんでした。
しかし、後半開始早々46分に、フレッジがペナルティーアークから放ったシュートは、スパーズのDFベン・デイビスにぶつかり軌道がそれてゴール。69分にはフェルナンデスの技ありのゴールを決めてこれで2-0。守っては連携のとれたハードワークの甲斐あってクリーンシート。ケインとソン・フンミンの2トップを封じきりました。
しかし、マンチェスター・Uは今までもいい試合をしたかと思ったら、次の試合ではまた元通り…なんてことはありました。
という訳で真価が問われる次の試合。復活を確信した試合です。
第13節 vsチェルシー戦
グレアム・ポッター監督の即断即決
まずはラインナップからいきます。
ホームでマンチェスター・Uを迎え撃つチェルシーは、グレアム・ポッター監督就任以降負けなし。実はポッター監督は今シーズンの開幕節に、ブライトンの監督としてマンチェスター・Uに勝っています。
マンチェスター・Uは、サンチョとアントニーの両WGがそれぞれ対応するサイドのCBを見て、WBにボールが渡ればそこを追いかけます。ラッシュフォードはチェルシーの3バックの真ん中のシウバを。
エリクセンがジョルジーニョをマークして、チェルシーの中央からの攻撃を封じようという作戦。フェルナンデスは基本的にロフタス=チークに。ただ機を見て誰にでもプレスをかけます。
チェルシーの攻撃をサイドに迂回させて、ディフェンシブサードでクロスを上げられても、マンチェスター・UはDFの帰陣が素早いので対応が可能。マンチェスター・Uのこの守備が効いていました。
一方で攻撃はアンカーのカゼミーロを経由して、ハーフスペースから攻めていきます。ミドルレンジから積極的にゴール狙う姿勢も健在で、8分にはショーが、12分にはアントニーがハーフスペースで受けて得意の斜め右からと、早い時間帯から攻撃的な姿勢を見せていました。
前半36分にポッター監督が動きます。左CBのククレジャに替えてMFのコヴァチッチを投入。4バックにして後方で数的優位を作り、好き勝手にされていたカゼミーロにマウントが付き、ジョルジーニョをアンカーに置いて、コヴァチッチとロフタス=チークでハーフスペースを埋めるという4-3-1-2。
前半終わり頃にはチェルシーが攻め込む場面も多くなり、若干チェルシーのペースでHTを迎えます。
決して折れなかったマンチェスター・ユナイテッド
後半51分にテン・ハーフ監督は左WGのサンチョに替えてフレッジを投入。4-2-3-1のダブルボランチを採用することで、マウントのカゼミーロに対するプレスを曖昧にさせる目的があったはずです。
後半60分にヴァランが怪我でリンデレフと交代するというアクシデントが発生(W杯には間に合いましたね)。ただでさえ相手のペースのところに、守備のキーパーソンを下げざるを得ない状況になりました。
22-23シーズン序盤までのマンチェスター・Uだと、なんとなく攻略されていつの間にか負けているパターンが結構ありました。が、この試合では折れませんでした。
オーバメヤン・スターリング・マウントの3人が流動的に動くチェルシー。しかし、マンチェスター・Uは押し込まれる時間帯が長く続いても辛抱強く耐えます。隙があればなるべく高い位置で奪おうとし、どうにか状況を打開しようと狙っていました。
後半79分にエリクセンとラッシュフォードを下げて、マクトミネーとエランガを投入。マクトミネーをトップ下に、フェルナンデスを偽9番に置いて、中盤で数的優位を確保する狙いです。
しかし後半87分に、そのマクトミネーのミスでPKを献上。ジョルジーニョがしっかり決めてチェルシーが先制。しっかしまぁ、本当にPK上手いですよねジョルジーニョ。
チェルシーのシステム変更に対する答えを見つけることはできませんでした。が、メンタル面で折れませんでした。最後の笛が鳴るその瞬間までハードワークを継続し、ベストを出し切ろうという姿勢がありました。
PKの直後にフェルナンデスが自分たちのCKと思ったところを、ゴールキックと判定されてかなり悔しがるシーンもありました。ATが6分という場内のアナウンスが出ると、テン・ハーフ監督が選手達に「6分あるぞ!前行け前行け!」と身振り手振りで鼓舞するシーンもかなり印象に残ってます。
そして後半93分にショーからのクロスをカゼミーロがヘディングでゴールを決めて劇的な同点弾。吠えまくるカゼミーロ。チェルシーのGKケパもよく跳んでボールに触りました。ですがカゼミーロが気持ちで勝りました。
試合は1-1で引き分けの決着。勝てはしませんでしたが、見ている側の闘志すら呼び覚ますような、熱い何かが今のマンチェスター・Uにはある。それがあれば勝っていける。そう思わせてくれました。
おわりに ─ターニングポイントとなった「罰走」─
第2節のブレントフォード戦に0-4のスコアで大敗を喫した後、テン・ハーフ監督は休日返上で選手達に罰走を命じ、更にその罰走に監督であるテン・ハーフ監督自ら参加したそうです。
まるで青春スポ根ドラマ「スクール☆ウォーズ」のようなエピソードではないですか?
ここからマンチェスター・Uが変わったように思えます。
良い守備をしてガッツポーズしたり。シュートが外れたら露骨に悔しがったり。いいプレーがあったら味方同士で「良いぞ!」というリアクションをしたり。審判の判定が不服だったら「なんでだよ!?」という態度をとったり。
熱くなりすぎる場面もありますが、そういうのが今のマンチェスター・Uに必要なのではないかと。マンチェスター・Uの選手達の感情が、「勝ちたいんだ」という感情が前面に出ています。そうなると見ている方もつい熱くなってきます。
掛け値なしに、今プレミアリーグで1番熱いクラブです。
2022年カタールW杯はアルゼンチンの優勝で終わり、各国のリーグ戦が再開されます。プレミアリーグを普段見ていない方は、マンチェスター・Uなんてどうでしょうか。もっとも、SPOTVNOWを契約しないと見れないのがちょっと惜しいですが…。
プレミアリーグでCL圏内の4位以上に入るのは簡単ではありません。マンチェスター・Uが復活したと感じましたが、シーズンが終わってどうなっているかは分かりません。が、テン・ハーフ監督の哲学を今後も再現できれば、そう悪い結果にはならないでしょう。
憎たらしいほど強かったあの頃のマンチェスター・U。また憎たらしいと思わせるクラブになったら、それはかなり面白いだろうなと。そんなことを想像しながら、今回はここで締めくくりたいと思います。
最後まで読んでくださった皆さん。ありがとうございました。