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第22節 マンチェスター・シティvsチェルシー 理想のサッカーを追い求めるだけではないペップ

最初に

試合開始前の段階で首位マンチェスター・シティの勝ち点は53、対する2位チェルシーの勝ち点は43。シティはいよいよ独走体勢に入るために、チェルシーはなんとしても追いすがるために、どちらも相当の士気で臨んだはずの1戦。そして、やはり試合はハイレベルなものになりました。
ホームのマンチェスター・シティのスタメンはGKエデルソン、左SBカンセロ、CBは左かラポルトとストーンズ、右SBにウォーカー、ボランチにロドリ、IHにデ・ブライネにベルナウド・シウバ、3トップにグリーリッシュとフォーデンとスターリングの[4-3-3]。
対するチェルシーはGKがケパ、CBが左からサールとチアゴ・シウバとリュディガー、左WBアロンソ、右WBアスピリクエタ、CHが左からコヴァチッチとカンテ、シャドーに左からシイェシュとプリシッチ、CFがルカクのいつもの[3-4-2-1]。

前半

チェルシーのファーストプレスを翻弄するシティのCB

シティは序盤から落ち着いてボールを回しているな、というのが印象的でした。
ルベン・ディアスではなくジョン・ストーンズとアイメリク・ラポルトを起用し、最前線のルカクを引き付けてからボランチや下りてきたIH、あるいは大外のSBにパスを出す。そうすると、2シャドーのシイェシュとプリシッチはCHコンビの脇のスペースをケアするために走らざるを得なくなります。
これが後々ボディブローのように効いたのではないかと思っています。
[3-4-2-1]というフォーメーションを採用しているのでチェルシーはシャドーやWBやCHが走ってプレスを積極的にかけ守備からビルドアップやフィニッシュにまで持っていきます。
その特徴を利用して、味方のスペースを空ける為にチェルシーにわざと走らせる(=奪いに来させる)ようなビルドアップ。CBがギリギリまでドリブルして引き付けてすんでの所でパス。常にシャドーやCHが目を光らせているロドリに敢えてパスし、ロドリは寄せ切られる前に素早く味方にパス。勿論リスクが大きいプレーではありますがかなり有効でした。紙一重の判断を誤らない冷静さとそれを実行する技術の高さは、それだけでお金取れるほど華麗でした。
また、時折サイドの裏へのロングボールも混ぜたりするのもチェルシーからすると運動量が増えてかなり嫌だったんじゃないかという気がします。
特に巧みだったのはロドリで、CBがボールを保持していればチェルシーの2シャドーとCFの中間に立ち、味方が大外でボールを持てば相手のマークを引き付けながらワンタッチでボールを回せるし、パスコースを作ることもできるし、と、チェルシーからすると対処のしようがないし、プレスをかけても寄せ切る前に素早くパスを出されてしまうので骨折り損なところがありました。
※ちなみにロドリはパス成功数1290本でパス成功率は92%とプレミアリーグのMFとしてはトップの成功率。

ロドリが中盤の底で受けれる場所に居る、また受けれなくても他へのパスコースを作ることでチェルシーの思惑通り(大外レーンで捕まえてビルドアップetc…)のプレーをさせていませんでした。
逐一立ち位置を変えボールを素早く出すロドリの対処に苦労するチェルシー。ロドリ1人の存在でチェルシーとしては自陣に撤退することになり、守備→攻撃の際に「人が居るべき場所に居ない」「ビルドアップよりもまずはボールのクリア」という展開が続いていました。
また、デ・ブライネが献身的に走ることで特にチェルシーのCHに前を向いてプレーをさせていませんでした。そこでボールを奪えていたのでシティの勢いがそこまで削がれ無かったのではないかと思います。

狙い通りの守備ができなかったチェルシー

では、そのシティのビルドアップ時にチェルシーはどう守ればよかったか?ということになります。より具体的に言えばどうプレッシャーをかけるか?
チェルシーの守備の原則は「5-2-3のDFラインで相手に大外を経由させる」ということです。しかしこの試合ではシャドーがそこまで高い位置で守らず[5-4-1]の守備ラインになっていました。そこである程度CBやボランチのロドリに余裕ができる。CBに余裕ができるのはシステム的に仕方ないとしても、ロドリを誰がマークするのか?という部分がハッキリとしていなかった。
ルカクがCBからロドリへのパスコースを消すのはそれなりに出来ていましたが、両シャドーの守備の役割が基本的にボールについていく感じで、ロドリに自由に仕事をさせてしまっていました。
また、チェルシーのシャドーが両サイドレーンの相手選手にそこまで強いプレスをかけず、SBやIHにパスを出し入れさせる余裕を持たせてしまったのも失敗でしょう。

それでも守りきったチェルシー

[5-4-1]で中央をコンパクトに守るという選択を採ったチェルシーに対して前述の通りのプランで攻撃するシティ。
とは言っても39分のコヴァチッチのパスがデ・ブライネに当たりそのボールを中央に走り込んでいたグリーリッシュがシュート。ケパのセーブで難を逃れたそのシーン以外にそれほどピンチは無くなんとか無失点で前半を終えます。
チェルシーは守備面よりも攻撃面で修正したい前半の結果でした。両シャドーのプリシッチ&シイェシュが(自陣から見て)シティのIHの前辺りまで下りてビルドアップに参加したり試行錯誤はしていましたが、結局どうやってフィニッシュまで持っていくか?言い換えれば、どのように「ルカクが仕事する段階」まで攻め込むか?というプランがあまり豊富では無かったように思えます。
またチェルシーの両WBの攻撃参加も少なく、それも原因だったかなと思っています。
事実、前半の枠内シュートは0本(これはトゥヘル体制になって初めてです)。
前線のプレッシングや選手のポジショニングに課題が残る前半でした。

後半

Q.ロドリを誰がサポートするか? A.状況に応じて誰でも

HT明けての交代は両チームともに無しで後半キックオフ。
後半始まってすぐの46分にチェルシーが早速チャンスを作ります。
シティのボールロストからそれをコヴァチッチが裏へ抜けようとするルカクに合わせてスルーパス。惜しくもルカクのシュートはエデルソンのセーブに阻まれます。チェルシーはしばらくその勢いを保ちましたが再びシティに押し込まれます。
前半はあまりオーバーラップせずにビルドアップに参加していたウォーカーが高い位置を取り、チェルシーの左サイドに圧をかけ始めました。こうするとカウンターのリスクは増えますがシャドーやCHのマークを引きつけることが出来ますし、左WBはウォーカーを警戒するのでいよいよ攻撃参加が難しくなります。
ウォーカーが高い位置を取るとなるとビルドアップ時にロドリを誰がサポートするか?という問題も浮上しますが、
①ロドリが最終ラインまで下がる
②偽9番のフォーデンがより低い位置まで下がってサポート
③IHがサポート
することでそこの問題はクリアしていました。

シティの最初の1点は容赦ない1点

チェルシーは左利きのシイェシュを右シャドーに右利きのプリシッチを左シャドーにして中央からの打開を試みましたが、如何せんシティの選手のポジショニングが逐一ズレてボールを運ぶので、中々捕まえようがありませんでした。シティが押し込むという展開は変わらず。前半から引き続いてGKケパが仕事します(仕事させられている)。
後半68分シイェシュとプリシッチの両シャドーをヴェルナーとハドソン=オドイの2人に交代。2人ともスピードがあり前へ突破できますし、ヴェルナーなら自ら囮となってルカクを活かすこともできます。
約1分後の後半69分に試合が遂に動きました。動かしたのはチェルシーではなくシティ。右シャドーに入ったヴェルナーの左SBカンセロに対するプレスが遅れた(といってもほんの僅かに)ところをカンセロがすかさずデ・ブライネに縦にパス。パスを受けたデ・ブライネはペナルティーアーク左からファーにカーブをかけてシュート。無情にもケパの手は届かずボールはネットを揺らしました。
下のツイートの画像を見てみると、前方にアスピリクエタがいて尚且カンテがパスコースを切ろうとしています。この状況でデ・ブライネにパスを受けてすぐ前を向けるように正確な鋭いパスを出せるのは恐ろしいですね…。

丁度選手交代で入ったヴェルナーの対応が、本当にほんの少し甘くなってしまい、そこからの失点。チェルシーにとって出鼻をくじかれるメンタル的にキツイ失点です。
チェルシーはその直後から、右WBのアスピリクエタが積極的にオーバーラップして攻撃参加。右シャドーのヴェルナーのスピードに左SBのカンセロが追いつけない場面もありました。チェルシーは右サイドからチャンスをいくつか作りましたがあと一歩が及びません。
WBがオーバーラップすることでシティの後方(チェルシーにとってのアタッキングサード)で数的不利にならないのもありますが、特にカンセロが左のサイドレーンの高い位置で攻撃の要になっていたので、そこをようやく突き始めるようになりました。
なんとか同点に追いつきたいチェルシーではありましたが、デ・ブライネとベルナウド・シウバが鬼のように走って素早くリカバリーして…という終盤の展開。

[3-4-2-1]は選手間のサポート距離を適切に保つ⇒選手を孤立させれば良い

チェルシーは基本的に[3-4-2-1]システムを採用しています。このシステムの利点の1つとして「5つのレーンにバランス良く選手を配置できる」という点があります。
バランス良く配置できるというのは言い換えれば、そのままでは数的有利を作れないというこでもあります。
なので、局所的に数的有利を作る場合に誰か数人走る必要があります。
例えば、相手のSBがサイドレーンでボールを持った場合に同一サイドのシャドー・CH・WBが一気にプレスをかけて局所的に数的有利を作ります。
で、あるならば「ミドルレンジorロングレンジのパスでビルドアップすれば集団でプレスをかけられるリスクを減らせる」と考えたのがこの試合のシティの意図でした。つまり、局所的に数的有利を作る機会を相手に与えないということです。
そしてミドル・ロングレンジのパスで繋ぐとチェルシーの選手は孤立してしまいます。シティの得点シーンでも、上のツイートの画像のように選手を2人(アスピリクエタとカンテ)すっ飛ばして孤立させています。
後半80分にメイソン・マウントがマルコス・アロンソとの交代で投入されてからは、チェルシーはシステムを[4-4-2]に変えて守備時にサイドで数的有利を作りやすくしました。サイドレーンで即時奪回からのカウンターという狙いだったのではないか?と思っています。
その狙いは実らず、結果はシティの勝利に終わりました。

最後に

「奪いに来たらスペースが空くからそこにパスを出せばいい。奪いに来なかったらそのままゴールに向かえばいい。」
だけではない相手の長所(豊富な運動量とそれによるプレッシング)を逆手に取るボール運び。老獪さすらも見せ始めたグアルディオラ。という印象でした。

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