「地方のパン屋がAIレジで超絶進化」にみる地方とデザインとテクノロジー

最近、頭の中は地方とデザインとテクノロジーのことだらけ。色々な考えを巡らせながらお風呂の中で頭の整理をしていたら、地方にこそデザイン。地方にこそテクノロジー。そう確信づける記事を去年見たのを思い出しました。

その記事がこれです。(昨年5月のものです)

「すごすぎる」——地方のパン屋が“AIレジ”で超絶進化 足かけ10年、たった20人の開発会社の苦労の物語

BakeryScan(ベーカリースキャン)」のHPを覗くとその導入店舗の多さに驚く。昨年5月に見たときよりも明らかに導入店が増えている。「地方のパン屋」の「レジ」の「手入力の煩雑さ」によって「行列が生まれると困る」という大手が狙わないニッチなんだけど、解決すればインパクトの出る困りごとを見事に突いたプロダクト開発の賜物でしょう。

記事を読んでもらえればその超絶進化は理解できるので、ここでは私が感じていることをざっと書いてみたいと思う。

最近カスタマージャーニーマップをよく耳にするようになった。昔マーケティングエージェンシーで働いていた時と比べてもそれは大違いです。それだけ世間に浸透してきたフレームワークということでしょう。

カスタマージャーニーマップは顧客がどうやってサービスに触れて、どんな体験をして、どんな感情を起こすのかを書き出すもので、いわゆる「顧客の体験の地図」のようなもの。

先に、BakeryScanが「地方のパン屋」の「レジ」の「手入力の煩雑さ」によって「行列が生まれると困る」というニッチなんだけど、解決すればインパクトの出る困りごとを突いた。と書きましたが「カスタマージャーニーマップ」を書いてみるとそこに「狙い目」があることは誰の目にも見えてきます。

よくフェーズ毎に「思考モード」や、その時に現れる「感情曲線」を書いたりするのだけど1枚に全てを収めるのは到底できないものと個人的には思っている。

なぜならば、タッチポイント(ここではサービスアバターと呼ぶ)を書き出すだけでも相当の数あるからです。顧客は多種多様なの媒介を通じてサービスを体験します。それは例えば「パンをのせるトレイ」だったりもする。

個人的には、サービスアバターを網羅的に書き出してみるだけで「カイゼンすべきポイント」のアタリが付けられるレベルまでは直ぐに可視化できるし、優先順位もわりかし付けられると思っている。一方、思考モードや感情曲線は正直、ジャーニーマップを書く人や、想定するペルソナで前後左右に振れるのであまり書く意味がないと思っている派です。

ということで、ざっとですが「地方のパン屋」のカスタマージャーニーマップを、特に「サービスアバター」部分だけ切り出したものを書いてみた。

Entise→Enter→Engage→Extendという「4E」のフレームワークはTakramのオズさん(佐々木さん)がPodcastで説明していたもので、それを活用させていただいている。短く単純に整理できるので重宝しています。

このように整理してみると、パッと見気づくのが「Engage」部分にサービスアバターが集中していることが分かります。世に出回るCJMの枠だと狭すぎて綺麗にまとめようと思ってしまってここまで書き出せないというのがネック。顧客ファーストで考えている人ならば、地方のパン屋の運命を握っているのは間違いなくここだということが分かります。

そのまま、お店に行ったことを想像してもらえると良いのですが、例えば、今度いく旅先に、それはそれは美味しいパン屋があることを知って、気持ちを高ぶらせながらお店につきました。そしたら「欲しかったパンが売り切れていてない」となれば一気にルンルン気分は落胆して、お店を出た後にそのパン屋のことを友達に進めることはないと思います。仮に、欲しいパンが手に入ったとしても質問をしたスタッフの対応が悪ければ二度とその店を使おうとは思いません。

仮に、欲しい商品も手に入って、最高の接客をしてもらったとしても、レジに行列ができなかなかお会計までたどり着かない、あるいはレジ番が回ってきてもレジの入力が遅くてイライラしてしまっては、帰りぎわにその美味しいパンを気分良くSNSでシェアしようとは思いづらいでしょう。

幾つか例を挙げてみましたが、考えれば考えるほど、Engageフェーズにあるサービスアバターのほとんどのものが店の売上に直結していることが分かります。そしていくら素敵なインテリアで、いくら最高の接客をしたとしても、悲しいことに最後の最後に待ち構える「レジ」で逃してしまうことがあるのです。

こうして整理されてくると、どうせカイゼンするならば「レジからカイゼン」をしていくべきだという頭になりますね。BakeryScanが「レジ」にフォーカスするのにどんな手法を使ったかは分からないのですが、多分サービスデザイン的な整理があったのではと想像します。

それに、例え接客が悪かろうとも、例えお店の設えが悪かろうとも「レジが爆速で瞬時に会計が済んでしまう」といった非日常の体験を味わうことができれば「スタッフはいまいちだけど、また行きたいな」と人は思うわけです。

GUILDの深津さんも日経電子版を例にして「速度」について言及しています。

それはレジにおいても同じことが言えると思っていて、最低限のサービスアバターの質があり、そこに神速度のレジが加わればトータルとしての顧客体験は高い確率でプラスに働くと思います。スタッフはイマイチでも「あのパン屋のレジまじやべえ!はええ!」とExtendされていくのが想像できます。それにプロダクトの動きが速ければ、その分、人は粒子化され「みなしの労働力」が増えていくことが期待できると思います。

今回、BakeryScanを題材にして、カスタマージャーニーを使ったクリティカルポイントの抽出や、速度は神で、プロダクトの速度が労働力を生むという話をしてみましたが、前者の方は「デザイン」後者の方は「テクノロジー」に対応します。

そして、地方部の問題は、労働力不足、コミュニケーション不足、最適化が不足しているために生まれているものがとても多いというファクトがある。

BakeryScanのような「デザイン」と「テクノロジー」が組み合わさったプロダクトが地方に導入されていけば、息途絶えそうだった生物が何かを得たように急激に超絶進化を遂げたり、リープフロッグする未来もまだまだ十分にあると思っています。

「普通に暮らせる人により、楽しくなってもらおう、便利になってもらおう」というテクノロジーも当然良いのですが、時として社会問題化してしまう場合もあります。デザインもテクノロジーも「本当に困っているところ」に向けられたものがもっと社会に増えたらいいなというのが私の思い。

この記事が誰かの何かのお役に立ったら幸いです。それでは今日はこの辺で。


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田中新吾|ハグルマニ
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