記念日なんて、
仕事が終わり、いつものように帰宅する拓巳。見上げるとイルミネーションが街を照らしていた。
「もうそんな季節か…。」毎年のように自分には関係の無いイベントが来ることを拓巳は特に気にすることは無い。
25歳の時からクリスマスに忘年会、大晦日など若者が好みそうなイベントには一切興味が無かった。正確に言えば興味が無くなったのかも知れない。
大学卒業と同時に大手企業に入社。無我夢中で業績を上げるためだけに必死だった3年間は、決して潰れることがないと言われた破産という結果で幕を閉じた。
人生の転換期にも拓巳は動揺することは無かった。起こってしまったもの、これから起こることに一喜一憂することに意味は無い。そして群れを嫌い、一人の時間を邪魔されることほど人生で不愉快なことは無いと、口癖のように言う。
イルミネーションで彩られる街も、拓巳にとっては光る色が増えた程度にしか感じないのかも知れない。
家に帰宅すると珍しく梨沙が料理をしているところだった。
「あれ、今日は早かったのか?」
「うん、珍しく仕事が早く終わったから拓ちゃんのご飯も作っているけど、どこかで食べてきた?」
「ううん。食べてない。ありがとう。先にお風呂に入るわ。」
「分かった。」
結婚して7年目。お互いに子どもは必要ない。欲しかったのかも知れないが、すでにお互いに44歳となった今。リスクと今のどっちを取るかは二人とも理解しているつもりだ。
不満はない。欲もない。笑顔が絶えないかと聞かれれば、決して笑顔が多い夫婦ではないかも知れない。それでもお互いが分かるだけの温もりがこの部屋にあるだけで十分だ。
この年になると言わなくても分かること、言っても変わらないこともあると言う。自分達はどうだろうと照らし合わせることもあった。
結婚して一度も記念日や何かお祝い事をしたことはない。
それでも毎月、記念日にはどちらかが必ず誘って外食をする。お互いに今日が何の日か話すことも無ければ、何かを要求することもない。ただ月に一回の外食は必ず「ありがとう、ごちそうさま。」と言って帰宅するだけ。
その日だけ手を繋いで帰る。毎月必ず。結婚してから84回、手を繋いだことになる。月に一度のその日だけ。
来月、85回目が来る。それ以上でもそれ以下でもない。いつか終わるその日が来ても…それも仕方ない。温もりを感じる人との時間に記念日なんて必要ない。
言葉にするのが恥ずかしいわけじゃない。記念日なんて、