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bokuchibi0501
切なさのグラス
『男は「名前を付けて保存」、女は「上書き保存」』
どこかの雑誌で目に飛び込んできた、恋愛における男女の違いについて達弘は成田空港の搭乗口で、ふと思い出していた。
37歳、バツイチ。
恋愛も結婚もそれなりに経験してきた。名前を付けて保存する女がいたかを振り返ることは今までになかった。
会社の働き方改革によって有休を消化しろと言われ、イタリアのアマルフィ海岸に10日間行くことを決めた。
世界一で一番美しいと形容されるアマルフィ海岸。行くのは初めてじゃない。当時付き合っていた女性と、お盆の時期に二人で旅行をした。
久しぶりの有休で旅先を模索していたところ、もう一度あの世界で一番美しいと称される海岸を見てみたくなったのは、一人で行くことで見る景色は変わるのか確かめたかったからだ。
あの時、付き合っていた女性のことを好きだったか正直覚えていない。覚えているのは自分が好きなところに連れて行くことが、自分の好きなところであり、彼女もきっとそんな俺が好きだろうと思っていたことだけだ。
「自分が一番好きなんだよね、あなたは。」
別れの言葉の記憶は曖昧だけど、あの一言だけは忘れなかった。
サプライズをすることで喜んでくれることが重要じゃなくて、サプライズをして喜んでくれるであろうと考えている自分の行動が大好きなだけだった。
あの時、普段とは違う日常がそこに存在し、幸せな時間を過ごしていたのに水が注がれたグラス越しの彼女の視線はどこか切なさを感じた。
一人…酔いしれていたのかも知れない。幸せにしてあげていると勝手に思い込んでいた恋愛ごっこに。
保存される前のあの日に戻れるなら、一言だけ自分に言ってあげたい。
「いつまでも自分を見てても同じ過ちを繰り返すだけだよ。見てあげて。あなたの大事な人を。」
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