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夕食後のルーティーン。あるいは蒸し暑い5月の夜。

夕食の後、僕はアールグレイの紅茶を淹れる。
その紅茶を小さい水筒に入れて、僕は家の近くの公園を散歩する。
今となってはいつから始めたのか覚えていないが、これが僕の夕食後のルーティーンだ。

僕の家は閑静な住宅街の中にあるが、幸いなことに近くに大きな公園がある。
その公園に向かう時、僕はいつも同じ曲を聴いている。
デヴィッド・ボウイという人が歌ったStarmanという曲だ。
普段はスマートフォンで音楽を聴いているが、この時間公園に近づくと調子が悪くなるので、以前母親が使っていたカセットテープとヘッドフォンを使っている。
Starmanを聴き終わる頃、普段寄るコンビニを通り過ぎ、It Ain't Easyを聴きLady Stardustのサビに差し掛かる頃、公園が見えてくる。
今日は普段よりも少し明るく感じる。

バブル期に開発された住宅街の外れに、この公園がある。
住宅街の外れにあるとはいえ、この公園は面積も広く設備も充実しているので、日中は親子連れやお年寄りの憩いの場になっているが、夜は静かになるので散歩しやすく気に入っている。
僕の公園での過ごし方は、まず公園内を一周して、気が向いたらベンチに座ったり、読みかけの小説を読んだりしている。

ふと、サッカーコートの近くから、ヴァイオリンの音が聴こえてくる。
練習中なのか同じ所で演奏を止めて、何度も繰り返している。
ヴァイオリンは触ったことがないが、腕が4本ある彼が苦戦しているんだ、きっと難しいんだろう。

噴水の近くに行くと、同じクラスの田中さんの姿が見えた。
僕と同じで、クラスではあまり目立たない存在だが、特に話したことは無かった
はずだ。
飼い犬を散歩させていたのか、手にはリードだけを持っている。
ふと目をやると、彼女の犬は噴水の水の中で楽しそうに遊んでいた。
楽しくて我を忘れているのか、頭が2つ、尻尾が4本に戻っている。ツノが生えているから、きっと種類は亜種なんだろう。
真面目そうな田中さんのことだから、普段は条例を守っているんだろうが、こうなっては飼い犬に条例を守らせることも難しいだろう。
お互い気まずくなるだろうし、声をかけずにおこう。

公園の南側の入り口の近くに、子供用の遊具が並んでいるエリアがある。
昼間は子供たちが遊んでいて賑やかだが、もちろん夜は誰一人いない。
僕は、夕方まで母親が子供を見守っていたベンチに腰掛け、水筒に入れたアールグレイの紅茶を一口飲んだ。
5月の夜にしては蒸し暑く、どんよりとした湿気を感じていたので、紅茶までぼんやりした味に感じた。
しばらくゆっくりして、僕は持ってきた文庫本を開いた。
普段から、何冊か読みかけの本を机の上に置いて並行して読んでいるが、今日手に取ったのはロバート・A・ハインラインという人の書いた夏への扉という本だ。
あまりSFは好きではないが、猫が好きなのでこの本を手に取ってみたが、思ったほど猫は出てこないらしい。

しばらく本を読み進めていると、感じたことのある違和感を覚えた。
人によって感じ方が違うらしいが、僕は自分の後ろを子猫が駆け抜けるような気配を感じる。
本から顔を上げると、夜空に3台の大型の宇宙船が並んでいた。
今日の湿気はこのせいかと思いながら、僕はすっかりぬるくなった紅茶を飲みながら宇宙船を眺めていた。
どうやらしばらく動くつもりはないらしい。
騒がしくなることはないだろうが空が不自然に明るいと気が散るので、僕は文庫本をしまい家路に着いた。
普段寄るコンビニを通りすぎる頃には、宇宙船はどこかに消えていた。
昨日も明日も同じような毎日を繰り返すことが決まっているように、この住宅街は静まり返っている。

家に着くと歯を磨き、軽くストレッチをしてベッドに入る。
これが僕の夕食後のルーティーンだ。
昨日も明日も、僕は同じような毎日を繰り返す。
昨日も明日も、僕は夕食後にアールグレイの紅茶を淹れる。




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