【ミカタをつくる広報の力学】 #58 施政方針演説でPRを考える
少し前になりますが、第208回国会において施政方針演説が発表されましたので、その内容のおさらいとPRへの活用方法を書きたいと思います。
施政方針の記事を読むと、メディアの論調も見えてきますよ。
※初めての方は、「#00 イントロダクション」をお読みいただくと、コンセプトがわかりやすいかと思います。
施政方針を広報計画の参考に
施政方針演説とは、毎年1月に召集される通常国会の冒頭で、内閣総理大臣が今後1年の内閣の方針を話すものです。
つまり、毎年の広報計画を立てる際にも役立つ内容が含まれている、と考えることができるわけです。
演説の内容は、首相官邸サイトに行けば動画とテキストがアップされていますので、誰でも見ることができます。
新聞社などのウェブサイトでは、演説の全文や要約された記事が出ます。
自社の事業などと関連する行政課題については、国政トップの考えを知る機会ですので、ぜひ参考にして話題づくりに役立てることをお勧めします。
ここでは施政方針演説をPRに活用する方法を書いていきます。
まず知ることができるのは以下の2つです。
①施政方針から国政の概要を知る
内閣の方針ですので、そのとき直面している国政の課題や総理大臣のビジョンによって内容は異なってきますが、財政、経済、外交、福祉など、行政上の戦略ごとに発表されることが多いです。
②新聞記事から各紙の論調を知る
新聞社のサイトで掲載される要約には各紙の論調が現れます。
つまり、40分以上の演説から切り取った部分が、そのメディアの興味対象であることを示しているのです。
国政の動向は多くのメディアの関心事であり、フォーカスした部分はメディアの論調なので、広報担当者としては施政方針演説の内容に沿って広報計画を立て、各記事の内容から売り込み先を考えれば良いことになります。
例えば、施政方針演説で高齢者再雇用について語られ、労働問題に強い新聞がその部分にフォーカスした場合は、自社内でも高齢者再雇用を進めて、その新聞に売り込めば掲載確率が高くなる、というわけです。
気になるキーワードをピックアップ
では、今回の施政方針演説の内容はどうでしょう。
私の個人的な解釈ですが、自分なりに全文を読んで感じたことを書いていこうと思います。
ざっくり分けると、「コロナ対策」、「経済政策」、「国民の生活」、「外交」の4つに大別されるかと思います。
縦に割ると全体像が見えにくいのですが、全体的に「DX」と「SDGs」という横串が通っているように感じました。
ここでは「新しい資本主義」を中心に、個人的に気になったキーワードについて書いていきます。
【デジタル田園都市国家構想】
従来の「地方創生」をDXと絡めて、交通、通信、金融などのデジタルインフラを総合的に進化させることで、「デジタル田園都市国家」として流通を活性化させて景気循環させたい、と解釈しました。
具体的には、自動運転、5G通信、マイナンバーカードなどの実用促進ということです。
【スタートアップ創出元年】
戦後に次ぐ「日本の第二創業期」をつくるべく、今年を「スタートアップ創出元年」として五ヶ年計画で進めていくそうです。
そのために10兆円の大学ファンドを組んでイノベーション人材育成にも注力するそうなので、技術革新やパラダイムシフトの加速が望まれます。
【分配戦略】
最低賃金の見直しなどによる「賃上げ」、人的資本をコト的に捉えたスキルなどの「人への投資」、世帯所得の引き上げによる「中間層の維持」の3つで成長と分配の好循環をつくるそうです。
「賃上げ」も「所得中間層」も、戦後の高度成長期に実現したことに似ていますが、当時は「量的」に捉えていた人的資本を、今回はアイデアやスキルなど「コト的」に捉えている点が大きな違いといえます。
【アジア・ゼロエミッション共同体】
2050年のカーボンニュートラル実現に際して、日本の技術やノウハウを活かしてアジアの脱炭素化に貢献するため、アジアの有志国とともに「アジア・ゼロエミッション共同体」と呼びうるものを目指すそうです。
アジア諸国の経済圏や貿易にも影響が出るかもしれません。
【多様性が尊重される社会】
新しい資本主義を支える基盤として、「すべての人が生きがいを感じられる社会」を挙げており、女性の経済的自立、孤独・孤立への支援、不妊治療、少子化対策などに言及しています。また「こども家庭庁」については「創設します」と言っているので、近いうちに設置されることが予想されます。
【地域活性化】
こちらは前述の「デジタル」とは別の、産業改革的な内容になっていて、農林水産業の輸出促進、観光産業の高付加価値化などに言及しています。
日本酒や焼酎の「ユネスコ無形文化遺産」への登録を目指すというのは興味深いですね。最近話題になった佐渡金山は「世界文化遺産」なので、たぶん別枠です。
施政方針からファクトをつくろう
施政方針演説の内容から気になるキーワードをザックリと説明しましたが、これでも全体の半分にも満たない内容です。上でも書いたように、メディアが記事にするときのは、ここからさらにピックアップされます。
私が面白いと思ったのは、最後の日本酒の文化遺産登録の話は、地方紙の記事が多いこと。地酒があって地場産業や観光事業に関わってくるわけですから、地元の人たちが読みたいのはそういう記事ですよね。
例えば、飲食に関わっている企業の広報担当者は、地酒の取り扱いを社内で提案してみてください。日本酒が文化遺産に登録されたときにキャンペーンを展開すれば、地元紙で掲載される確率が格段に上がりますから。
政府は大学ファンドをつくると言っているので、逆にそこから外れる専門学校などに対して投資を行うというのも、逆張りが好きなメディアを狙うなら効果的があるかもしれません。
多様性の尊重の中に「孤独」が入ってきたのも面白いですね。
これは「おひとり様」とは違った概念なので、商業的に扱えるかどうかが微妙ですが、SNSやプラットフォームなどの「繋がり」で、孤独な状態を回避できるサービスであれば開発の余地があります。
「孤独・孤立対策」については内閣官房や厚生労働省で扱ってますので調べてみると良いでしょう。
ご自身の企業のビジネスやパーパスと施政方針、メディアの論調を比較して、皆さんもいろいろなPRネタを考えてみましょう。
おわりに
今回は、施政方針演説を私なりの解釈でまとめてみました。
ここに掲載したまとめは私の個人的なバイアスがかかっているので、ぜひご自身で首相官邸サイトにて全文確認することをお勧めします。
このくらいの時期から年間広報計画を立てる人も多いと思いますので、施政方針を今後1年間の手がかりとして、ぜひお役立てください。
年間広報計画の記事は以下にリンクしておきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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ではまた次回お会いしましょう。