【ミカタをつくる広報の力学】#65 ステマ規制をPR視点で考える
2023年10月1日から施行された改正景品表示法、いわゆる「ステマ規制」が話題なので、消費者庁に問い合わせてみました。
今回は、ステマ規制についての簡単な解説と消費者庁とのやり取りを含めて、PRパーソンとしての私見を書いていきます。
官庁でも法律家でもない個人の意見なので、一つの参考意見程度に捉えていただけるとありがたいです。
※本コラムには「ステマ規制についての補足情報」という追加コラムが存在します。
※初めての方は、「#00 イントロダクション」をお読みいただくと、コンセプトがわかりやすいかと思います。
まずは「景表法」について
「景表法」とは「景品表示法」の略称で、正式には「不当景品類及び不当表示防止法」といいます。
詳しくはこちら。
ザックリ言うと「嘘を表示して騙しちゃダメ」とか「高額な景品を付けて煽っちゃダメ」という法律で、ズルいことをして売ろうとするような「不正競争」を防止するものです。
元々は独占禁止法などを扱う公正取引委員会の管轄でしたが、2009年から現在の消費者庁へと移管されました。
景品に関しては、クローズドキャンペーンの景品価格は購入価格の20倍まで(2023年現在)といった価格規定や、コンプガチャのような射幸心を煽るキャンペーンの禁止などが定められています。
本来の商品価値を無視して、賞品だけを目的に購入が促進されると、市場競争がめちゃくちゃになってしまうからです。
表示に関しては、基本的に「優良誤認表示」、「有利誤認表示」、「その他、誤認されるおそれのある表示」という「不当表示」が禁止されています。
「優良誤認表示」は実際よりも優れていると思わせるような表示、「有利誤認表示」は実際よりもお得だと思わせるような表示のことです。
また「不実証広告規制」として、性能や効果を示す根拠となる資料の提出が求められることがあります。
オールドメディアに広告を出したことのある人は知っていると思いますが、出稿する際の「考査」で根拠資料の提出を求められますよね。
「その他、誤認されるおそれのある表示」では、優良誤認、有利誤認のどちらともつかないけれど、消費者に誤認されるおそれがある表示として、無果汁飲料や原産国表示、おとり広告など、6項目を規定しています。
これらの不当表示はいずれも、消費者の利益を損なう可能性があるため禁止されています。
そして今回の改正法も「不当表示」の延長と考えられるでしょう。
ステマ規制の内容について
ウェブやSNSは他のメディアに比べると後発で自由度が高い分、ルールの整備が遅れているのは否めません。
その自由さも魅力のうちなので、極度に制限をかけて法律で縛るのは考え物ですが、ステマによる被害者が多発した結果、対策を講じることになったのだと思います。
今回最も言及されているのはインフルエンサーなどによるSNSへの動画投稿なので、投稿のモデルを中心に書いていきます。
今回規制されたステルスマーケティングの要件としては以下の2つ。
・事業者の表示であること
・一般消費者が事業者の表示であることを分からないこと
つまり、事業者(商品を販売する側)の意図で表示しているにもかかわらず、一般消費者(商品を購入する側)がその事実に気付かない状態であるときに「ステルスマーケティング」と定義されます。
そして消費者庁の発行するガイドブック「景品表示法とステルスマーケティング」によれば、「事業者の表示と判断されるもの」の例として以下の4つを挙げています。
①事業者が自ら行う表示
②事業者が第三者になりすまして行う表示
③事業者が明示的に依頼・指示をして第三者に表示させた場合
④事業者が明示的に依頼・指示していない場合であっても、第三者に表示させた場合となるもの
①は明らかに事業者の表示と分かるのでステルスマーケティングに該当することは無いと思いますが、②や③は事業者が第三者になりすましたり依頼しているため、表面上は第三者の投稿であっても事業者の表示に該当します。
②は典型的なステマですし、③も依頼していることを隠していればステマになります。
ですが問題は④。
③のような「案件」としての明確なオファーではなく、単にサンプルを渡して投稿をお願いした場合でも、事業者が依頼したものと判断される可能性があるのが注意すべき点です。
サンプルを貰えるだけでも利得と考える人もゼロとは言い切れないので投稿者への利益供与は金品に限らず、関係維持や忖度なども恣意的に表示させる理由になり得ます。
つまり、グレーはクロと判断される可能性があるのです。
これを回避する方法は、事業者と投稿者はまったく無関係であることを証明するか、何らかの関係がある可能性を考慮してすべての表示に事業者の表示であることを明記するか、のどちらか。
しかもこの義務は事業者にのみ発生し、投稿者にも投稿されたメディアにも責任はありません。
消費者庁から景表法違反を指摘された場合、すぐに表示を改めて未然防止策などの改善策を講じないと課徴金を科せられることもある上に、現在閲覧できるコンテンツは、投稿時期が過去であってもすべて対象となるため、依頼して投稿してもらったものは、投稿者に対して事業者表示をしてもらう必要があります。
詳しくは消費者庁のホームページをご参照ください。
すべての責任が事業者に求められてしまうので、現在お勧めされている方法は、事業者が関わるすべての投稿には「広告」や「PR」と表示してもらいましょう、というものです。
でもそれもなんか違う気がしませんか?
消費者庁に聞いてみた
インフルエンサーなどの「第三者に投稿を依頼」する場合には、いかなる場合も「広告」や「PR」と表記してもらった方が無難です。
たしかに安全策ではあるのですが、何か引っかかります。
PRの場合は、できる限りオーガニックで、恣意的でない、客観的なファクトを求めているケースが少なくないはず。
にもかかわらず「一律で表示すればOK」というのは、逆に不誠実な気がしてしまいました。
なので消費者庁に直接確認することにしました。
以下、そのときのやり取りをザックリ記載します。
それはその通りですね。ごもっともです。
通常PRでは、公正を欠くようなことは後々レピュテーションリスクがあるので、正直に勝るものは無いのですが、例え正直な投稿であっても、過去に一度でも関係性が認められれば、何らかの忖度があった可能性がゼロではない、ということ。
この観点から考えると「投稿者の意思です!」と言ったところでやっぱりグレーゾーンとなりそうです。
事業者側が投稿者に「正直に書いて投稿してください」とお願いして、投稿者が「自分の意志で投稿しています」と表明したとしても、
客観的に証明できない限りステマの疑いは晴れない、ということです。
要は、事業者から物品を受け取って投稿依頼されていることが表示されていれば良いということ。
確かにプロセスをすべて正直に開示した方が誠実ですよね。
以上が、消費者庁のご担当者からヒアリングできた内容となります。
現在は法令施行直後のため事例も集まっておらず、先方もはっきりとは明言できない状況でお答えいただきました。
電話に出られた人にもよりますので、あくまでも公式見解ではありませんが、参考意見と考えていただければと思います。
結論として、消費者の意思で投稿するなら事業者の表示ではないが、それを客観的に証明することができないため、事業者の表示と明示しておいた方が無難。しかし表示方法は「広告」や「PR」に限らず、投稿依頼のプロセス自体を表記してもOK。ということのようです。
確かに前出のガイドブックでは、「一般消費者が事業者の表示であることが明瞭で分かるもの」の例として、「A社から提供を受けて投稿している」という記載があります。
この書き方であれば、ステマに抵触することなく、正直さだけは表明できますよね。
まぁ疑うことはいくらでも出来てしまうのですが(泣)
おわりに
企業のガバナンスに関して、監査法人などの第三者機関によるチェックをいれることがあります。
広告やメディアコンテンツでも同様に、JAROやBPOなどの業界団体を組織して監視するケースが少なくありません。
そう考えると、今後は消費者庁の認可を受けた第三者機関が認証して「これはステマではありません」というマークを付けられるようになったり、投稿依頼の際に公正な監査機関を通すようになったりするかもしれません。
これはこれで既得権益が発生してしまいそうな気もしますが(笑)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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ではまた次回お会いしましょう。
本コラムの1年後(2024年)に、「ステマ規制についての補足情報」という追加コラムを投稿していますので、そちらもご参照ください。