その2【九州斜断地震に関わること】
五年前、二〇一六年の四月に九州で連続して発声した大規模地震。一般的には熊本地震と称するようだが、私はあえて九州斜断地震と呼んでいる。
確かに被害が一番大きかったのは熊本市だが、この地震の肝はそこではない。
長い時間をかけてこの地震を画策した連中の狙いは、東シナ海の断層を大きくずらすこと、阿蘇から九重に発生させた大地の歪みを四国へ伸長させることだった……らしい。
らしいというのは、その辺りは伝聞での情報で真偽を確かめてないからだ。
ただ、天草からその沖に向かって楔(くさび)のようなものが穿たれようとしていたのを、何モノかが阻止して、楔自体を砕いたのは、私の眷属の持つ「遠目」によって確認した。
それとは別に、九州の中央部よりやや東寄り、阿蘇の外輪山を越えた辺りを中心にして、断層に沿って巨大な両の手が地の中より差し出され、大地を南北に押し開こうとしている気配が感じられていた。
こちらの現象は、無遠慮で大規模なものだから結構な数の人間も視認したのではないかな。それくらいに、あからさまだった。
姿を見せてから何日か後、十ばかりの刃めいたモノが突き出された両手に深々と突き刺さり、その勢いのままに、地の中へと押し戻していった。
刃めいたモノが何処から放たれたのか、その詳細までは知る由もないが、それでも、豊後水道以東の神さん連中の主立ったモノからが由来だろうとは安易にはかれた。日常では、勢力争いをしてはいても、こういう共通の災厄については協力するらしいことが、推して知れた一件だった。
事が終わった後、しばらくの間、九州の各地の大地に突き刺さったままの刃めいたモノがきらきらと綺麗だったのは良い思い出だ。
私自身は、この地震の顛末に直接は関与していない。
「遠目」を使って見える範囲のモノを観察していただけだ。
ただ、後日の調査に出向くことになった。
それは次の章で。
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