今日6月8日は世界海洋デー
シンワークス泉佐野の利用者でライターの静野沙奈巳さんが、過去に大好評を博した「ひきこもり」についてのコラム4編に続いて、「海」をテーマに記事をお願いしたところ、今日の世界海洋デーに合わせて「海洋生態系の保全・再生の必要性」を書き上げてくれました。
かなりのボリュームなので、一度に投稿するのはどうかとも思いましたが、私が読んだ限りはしっかりと下調べもされていて、とても興味深く非常に重要な内容になっており、一気に読めてしまうと思いますので、ご覧いただけたら嬉しいです。
そして、彼女が大変喜びますので、読まれた感想やご意見などを是非お寄せくださいね。
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6月8日は世界海洋デーということで、海洋生態系の保全・再生の必要性について見ていきましょう。
海。
そこは命にあふれた世界です。
地球上の面積の約7割を海が占めています。
海には様々な種類の生き物が膨大な数、生息しており、現在、海に棲む生物の種類は発見されているだけで約23万種。
発見されていない未知の種を含めると、100万種以上にものぼると言われています。
そして彼らはそれぞれ、沿岸域、汽水域、干潟、ラグーン、マングローブ、サンゴ礁、外洋域、深海など異なる環境で生き、相互に影響し合って豊かな海洋生態系を作り出しています。
この海が作り出す豊かな海洋生態系は、陸上の生態系や環境とも相互に影響し合い、それらの循環が地球の豊かな自然を生み出しています。
また、同じ種の生物間でも生息地域などによって遺伝子にバリエーションがある事も種の存続に欠かせない要素であり、同種間の遺伝子の多様性も生物の繁栄に寄与しています。
このように沢山の異なる種類の生物や生態系、遺伝子のバリエーションが存在することを「生物多様性」と言います。
生物多様性は自然の豊かさの象徴であると同時に、様々なものが循環することで地球上に生きる全ての生物に生きる上で必要なものを多く提供してくれ、私たち人間もその恩恵に浴しています。
多様な生態系から人間が得ることのできる恵み(利益)は「生態系サービス」と呼ばれ、私たちは知らず知らずのうちに自然から多くのサービスを受け取っています。
私たちが自然から受けている生態系サービスは主に以下の4種類があります。
①食料や薬品の原料といった様々な資源の「供給サービス」
②気候の安定や水質浄化などの「調整サービス」
③レクリエーションの場としてや精神的恩恵を与えてくれる「文化的サービス」
④栄養循環や光合成による酸素供給などの「基盤サービス」
海、海洋生態系から私たちが得ているものの具体例としては、日々私たちの食卓にのぼる魚や貝類、海老などの甲殻類や、それらを使ったかまぼこなどの加工食品の原料、スーパーやコンビニのおにぎりに使われる海苔といった食料はもちろん、医薬品や化粧品、染料などの原材料、塩や海洋深層水、真珠や珊瑚といった宝飾類の元、エネルギーや鉱物資源などの物資があげられます。
こうして挙げてみると海から供給されるものは私たちの生活の至る所にありますね。
また海は、食料や天然ガスなど様々な物資の運搬経路や人が移動するための交通の場として利用されたり、海水浴やマリンスポーツなどのレクリエーションを行う場になったり、美しい景色から観光地になり様々な産業を生み出したり、科学研究の対象として研究され新たな発見をもたらしたり、文学や芸術のインスピレーションの元となる事もあり、間接的にも私たちの生活や文化を豊かにしてくれています。
さらに、気候の調整にも一役買っており、海から蒸発した水蒸気が陸地に雨を降らせ、地球の水循環の維持に大きな役割を果たしています。
また海洋は、水とともに熱も運搬し、大気との相互作用によって気候の急激な変化を緩和して、地球上の大部分の気温の変化を生物の生息可能な範囲内に収めています。
さらに、二酸化炭素の吸収源でもあり、化学反応によって海水に直接溶け込んだり、海に生息する植物プランクトンが吸収して酸素を供給するなどで増加を抑えてくれます(海の植物プランクトンは地球上の酸素の維持に大きな役割を果たしており、植物全体の酸素産生量の約半分を担っています)
この調整サービスは人類を含めた生物の生存に欠かせず、もし全て人工的に行おうとすると莫大なコストがかかり、また非常に複雑なシステムなので、今の人類の力では到底再現できません。
そんな貴重なサービスを、私たちは対価無しに享受する事が出来ているのです。
このように、海は美しいだけでなく、数え切れないほどのものを私たち人間に与えてくれていて、まさに「海の恵み」によって私たちの生活は支えられています。
ところが近年、人間の活動によってこの海の恵みが失われはじめています。
2001年から2005年にかけて世界95カ国から約1,360人の専門家が参加し行われた、地球全体の生態系や生物多様性の変化について評価する「ミレニアム生態系評価」によると、海洋では20世紀末の数十年間で世界のサンゴ礁の約40%が壊滅あるいは劣化し、またマングローブ林がデータ入手可能な国において過去20年間で約35%失われるなど、生物多様が豊かとされる沿岸域の生態系が人間の活動により損失の危機にある事が指摘されました。
また海洋漁業資源(海でとれる魚)の量も、主要な魚種の4分の1が乱獲により激減し、枯渇の危機にあると評価されました。
特に海の食物連鎖の上位に位置する、一部のマグロ類やタイセイヨウマダラなどの大型の魚食魚の数が減少し、海の生物多様性の低下が指摘されました。
さらにミレニアム生態系評価では、24項目の生態系サービスの状況も評価しており、24項目の中で向上しているのは4項目(穀物、家畜、水産養殖、気候調節)のみで、15項目(漁獲、木質燃料、遺伝資源、淡水、災害制御など)が低下しており、多くの生態系サービスが維持できない形で利用されていると評価されました。
生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)の報告書でも、アジア・オセアニア地域において2048年までに水産資源が枯渇する可能性あり、サンゴ礁は2050年までに90%が著しく劣化すると推定されました。
日本では、高度経済成長期に進められた開発によって、干潟の4割が消滅、自然海岸も大幅に減少し、本土では5割を切っています。
砂浜も、河川や海からの砂利採取、河川上流部の整備などによる土砂供給の減少、沿岸の構造物による漂砂システムの変化などの影響を受け、海岸浸食が進み無くなりつつあります。
また、大型の海藻が密生した海中林などが著しく衰退する「磯焼け」やサンゴの白化現象も確認されています。
干潟、砂浜、海中林、サンゴ礁は、いずれも多くの生き物が棲む生物多様性の豊かな環境です。
砂浜や干潟ではアサリやハマグリ等の貝類、ヒトデ類などはもちろん、ヨコエビやコメツキガ二等の甲殻類、ゴカイ類、それらを食べに来る鳥などの生き物がいます。
砂浜、干潟の消滅によって彼らの減少が指摘されています。
また、ウミガメは砂浜に産卵するため、砂浜が無くなると産卵場所が無くなってしまい、ウミガメも絶滅してしまうかもしれません。
海中林(藻場)も、沢山の海藻と微生物、そしてエビ類やゴカイ類、ウニ、アワビ、サザエ、タツノオトシゴ、そしてクロダイやスズキといった魚類など、多くの生き物が生息しており、隠れ家としても絶好な場所のため産卵や子育ての場として活用する生き物も多いです。
また植物である海藻は二酸化炭素を吸収し酸素を供給してくれるため、調整サービスも担っています。
サンゴ礁も、多くの生き物の住処となっていたり、サンゴが排出する粘液やサンゴ自体を餌とする生き物が数多くいます。
特にサンゴの粘液は、目に見えない多くの微生物の餌として利用されていると考えられており、多くの生物への栄養供給を担っていると考えられています。
また、サンゴは動物ですが、サンゴ礁を形成する造性礁サンゴは褐虫藻という藻類と共生し、光合成によってエネルギーを得ており、海中林と同様に酸素供給も担っています。
砂浜やサンゴ礁、海中林一つが消滅するだけでどれだけのものが失われるか、多少は実感していただけましたか?
こうした事態は人間による活動が主な原因です。
たとえば、サンゴの白化現象は主に気候変動による海水温の上昇が原因と言われています。
温室効果ガスを大量に排出する人間の活動によって、地球の平均気温は上昇し、海水温も上昇しています。
他に日焼け止めに含まれる成分やマイクロプラスチックの影響などもありますが、全て人間の活動による影響です。
また、開発工事によって海へ流出した赤土もサンゴ礁の白化現象に関わっていると言われています。
開発工事は砂浜や干潟の消滅の主な原因でもあり、生物多様性を低下させる一因です。
また、無計画な漁業も生物多様性を低下させ、私たちの生活(主に食生活と海産物の物価)にもダイレクトに影響します。
魚介類の過剰な捕獲は、漁獲対象種(捕る魚介種)の個体サイズを縮小させてしまい、将来小さいサイズのものしか捕れなくなる可能性があります。
また、極端な数の減少により、海の食物連鎖のバランスが崩れてしまう恐れもあります。
他に、海に投棄された魚網などに生物がかかってしまうゴーストフィッシングも、生き物を弱らせて死なせてしまい、絶滅危惧種の個体数のさらなる減少などを引き起こしてしまいます。
また、日本を始めほとんどの国では禁止されていますが、一部の地域で行われているダイナマイト漁も多くの生物を傷つけ生態系を破壊してしまいます。
これ以外にも、人間が海辺や河川などで捨てたレジ袋などのゴミ類が、波や川の流れにのって海へ流出し、それをウミガメやクジラなどの海洋生物が食べてしまい、胃が満杯になって餌を食べられずに餓死してしまうといった海洋ゴミ問題や、プラスチックゴミが細かく分解され食物連鎖の中に取り込まれてしまうマイクロプラスチック問題、産業排水や生活排水、事故で流出した原油などの化学物質による海洋汚染や、人間が持ち込んだ外来種による生態系破壊などがあります。
また、現在ロシアによるウクライナ侵攻が行われていますが、このロシアによる軍事作戦の影響でイルカが大量死しているのでは、と先日ニュースで報道されていました。
潜水艦などのソナーから発せられる低周波が、イルカの方向感覚を狂わせてしまった結果、陸地に打ち上げられたり、餌がとれず弱ってしまったのではないかと専門家は指摘しています。
正確な事は今後の調査を待つしかありませんが、戦争も環境破壊の一因となっているのは間違いないでしょう。
海洋生態系の豊かさと貴重さ、それが今失われつつある事を纏めましたが、いかがだったでしょうか?
スケールが大きすぎで少々圧倒されてしまったかもしれませんが、私たちは全員、この豊かな海と生態系から多くのものを受け取っています。
これらが失われると、私たち自身が一番困るのです。
一人一人に出来ることは小さいかもしれませんが、「千里の道も一歩から」
出来ることから少しずつやっていくべきでしょう。
具体的には日々の生活で出来るだけ温室効果ガスを出さない生活をする、ゴミを減らす、使うプラスチックの量を減らす、日焼け止めや洗剤などの化粧品・日用品は、出来るだけ環境負荷の小さいものを選ぶ、川や海へレジャーに行った際はゴミを放置せず持ち帰る、定期的にゴミ拾いをする、などでしょうか。
他にも出来ることがあるかもしれません。
また、海洋生態系保全や環境問題への取り組みは、政府の政策や企業などの経済活動よるところも大きいと思います。
政府や企業が環境問題にしっかり取り組んでいるか監視し、環境問題に逆行する政策や環境負荷の高い経済活動には反対の声を上げ、環境に配慮し問題を解決する政策・経済活動がおこなわれているか、という目線で政治や経済を見るのも一つの方法だと思います。
また、ロシアによるウクライナ侵攻でも少し触れましたが、紛争が間接的に環境へ悪影響を与えている事もあります。
ウクライナ侵攻によって温室効果ガスの排出が増加するという試算も出ているぐらいです。
他に途上国の貧困や未整備のインフラなどから広がる環境汚染もありますので、紛争や貧困問題の解決が、間接的に環境問題の解決にも繋がっていくと思います。
こうして考えると、私たちに出来ること(そしてやらなければならない事)は意外と沢山あると思います。
どれか一つからで良いので、皆さんも取り組んでみてください。
静野沙奈巳