9割が知らない!? データガバナンスの新常識(連載①)
はじめに・データガバナンスとは
みなさん、こんにちは!
今回は、データガバナンスについての記事になります。
この記事は、データマネジメントやガバナンスの世界的専門家であるJohn Ladley氏の著書「Data Governance How to Design, Deploy, and Sustain an Effective Data Governance Program Second Edition」を参考にし、私なりの解釈も踏まえまとめていきます。
本書は、データガバナンスに関して、非常に深く広くまとめられているので、何回かに分けてご紹介したいと思っています。
かなり濃く・深い内容にできればと考えているので、是非最後までご覧いただけると嬉しいです。
各回の内容は、以下を想定しています。
データガバナンスにおける重要な概念 ← ★今回
データガバナンスを組織に組み込んだ際のビジョン
データガバナンスにおけるビジネスケースのススメ
データガバナンス導入のプロセスオーバービュー①:エンゲージメント
データガバナンス導入のプロセスオーバービュー②:ストラテジー
データガバナンス導入のプロセスオーバービュー③:アーキテクチャ&デザイン
データガバナンス導入のプロセスオーバービュー④:実施
データガバナンス導入のプロセスオーバービュー⑤:運用と変革
さて、データガバナンスの詳細に入る前に、データガバナンスにおける重要な概念をいくつかご紹介したいと思います。
まず、そもそもデータガバナンスとは何でしょうか?
データマネジメント知識体系ガイド(DMBOK)第二版改定版の第3章データガバナンスではこのように定義しています。
もう少し、以下のパートに分けて解説しましょう。
データガバナンスにおける重要な概念
データは資産
まず重要な点として、データを資産として捉えるという点です。これはつまり、資本や人財などと同じように、データも資産として管理する必要があるということです。ここは重要な点なので、ぜひご認識おきください。
とはいえ、データは資産であると言っても中々ピンとこない方が多いのが現状です。というのも、データは利用されて初めて価値が出る(つまり資産になる)ものであり、組織内のデータを利用に適した状態で管理されている組織の方が珍しいからです。
そのため、多くの組織では、データは資産であると個人レベルではわかっていても、組織がまだデータから価値を出せる段階にないので、最終的にデータからどれだけの価値が生み出せるか具体的に示すことができません。そのため、組織レベルでは、資産として捉えられていないと思われます。
つまり、データを利活用するために、データマネジメントやガバナンスを推進させようとしても、そのROIを提示できないから、中々前に進まないといったようなことです。こうしたジレンマがデータを資産として捉えることに対する障害となっているように思われます。
私もよくこういったお話を耳にします。
データを資産として捉えることが難しいようであれば、まずは負債の面から目を向けてみると良いでしょう。
例えば、これまで企業はシステムを組織縦割りに構築してきた過去があり、情報のサイロ化が発生してます。このことで、同じようなデータが組織内の様々なところに重複して存在してしまっています。これにより、各データのメンテナンス負荷や工数が余計にかかってしまっています。
また、一方で、各組織が独立で業務を行っているわけではありません。情報は組織間を横断して連携する必要があります。この連携経路(I/F)が組織内のあらゆる場所で作成されてしまっています。これを俗にスパゲッティ化と呼びます。こうしてI/F資産が増えることで、これもまた維持管理に対する負荷や工数が上昇する原因となります。
こうした負荷や工数にかかる金額を調べてみると、驚くほどの金額になったりします。まずはこういったところから目を向けてみると良いかもしません。
要するに、いきなり資産として考えるのは難しいなら、データが正しく使われないことによるコスト(もしくは負債)に目を向けると良いです。
データ資産管理活動(データマネジメント)
そして、このデータを資産として管理するための活動をデータマネジメントと呼んでいます。
この施策には、例えば、以下のようなものがあります。
企業全体のデータやシステムにおける青写真を描く活動であるデータアーキテクチャ。
データ利活用等を推進するため、データが持つ文脈などを定義し、ドキュメント化するメタデータ管理
このような様々な活動があります。
この、データマネジメントにおける重要な概念として挙げられるのが、データマネジメントとは、データサプライチェーンのマネジメントであるということです。
つまり、データが生成されてから価値を生み出すまでの一連のプロセスを管理することです。一連のプロセスとは、データの生成→業務での利用→適切な管理→分析というようなイメージです。
DMBOKをご存知の方は、DAMAホイール図にある各知識領域の活動などをイメージいただいても結構です。
また、データマネジメントにおける他の重要な概念についていくつか下記に示しておきます。
※ちなみに、これらの概念はデータガバナンスにも当てはまります。
データマネジメントは、ビジネスにおける組織としての能力(ケイパビリティ)である:
データは企業全体における資産であるため、データを管理すること(データマネジメント)および、その管理を監視・統制すること(データガバナンス)はビジネス側の能力でもあるべきです。IT部門のみで実施されるものではありません。このためには、ビジネスの目標に沿った活動を実施することが重要です。データマネジメントは、プログラムである:
データマネジメントは、継続的に実施される活動であり、一過性のプロジェクトではありません!!データマネジメントには厳しさが必要:
データマネジメントは、後ほど説明するデータガバナンスで決めたルールなどに従うよう厳しく取り組まれなければなりません。データマネジメントは、企業全体での取り組みである:
もちろん初めは、小さな取り組みから行われることもあるでしょう。しかし、データマネジメントおよびガバナンスの最終的な目標は企業の通常業務として組み込まれていくことです。なので、小さい取り組みで終わらせるのではなく、最終的には企業全般に取り入れられるような戦略が必要となります。データアーキテクチャはデータマネジメント環境を表したもの:
データマネジメントは企業全体での取り組みであるため、データアーキテクチャは欠かせません。データアーキテクチャにより、企業のデータマネジメント環境が可視化され、データと他の要素(管理対象の人・プロセス・プロジェクト・ポリシー・技術・手続きなど)との関連性も可視化されます。
データガバナンス
データガバナンスを考える前に、少しガバナンスとは何か?についてから考えてみましょう。
これをデータに置き換えて考えてみると、冒頭のDMBOKのデータガバナンスにおける定義も理解しやすいかもしれません。
ちなみに、John Ladley氏はデータガバナンスを以下のように定義しています。
このように定義の違いはあれど、データガバナンスとは、権限と、情報資産(データ資産)を適切に管理するためのルールを結びつけることになります。
これでもイメージがつきにくい場合、コーポレートガバナンスや、財務のガバナンスをイメージしてみると良いかもしれません。その対象をデータに置き換えると良いでしょう。
もう一つデータガバナンスにおける重要な概念として覚えておいていただきたいのが、職務の分離です。
これは、先ほど述べたデータマネジメントと、データガバナンスはコインの裏表の関係であるということです。
つまり、データや情報に対し、実際に管理活動を行うのがデータマネジメント、その管理活動におけるルールやポリシーなどを提供することで、適切に管理活動が実施されるようにするのがデータガバナンス、というように、はっきりと二つの職務を分けることです。
これはあくまで理論的な考えです。つまり、実際にこれを実現するのは難しいですが、この概念を念頭に置いておくのは、データガバナンスを進めていく上で非常に重要なので覚えておいてください。
→例えばデータガバナンスのルールを作る人は、ルールを施行する対象となるプロジェクトの人から選出してはいけないとするのが理想的。しかし、現実的にはリソース上難しいので、ルール作りと、ルールの対象となるプロジェクトを兼任する人も現れてしまう・・・など。
ちなみに、このデータガバナンスについてもう一つ補足として覚えておいていただきたいのが、データガバナンスはあらゆるコンテンツやテクノロジーに関係なく、同じやり方で進められる必要があるという点です。
要約
さて、ここまでの要約ですが、
まず、データとは資産であるということ。こう考えるのが難しいなら負債の面に目を向けること。
そしてデータを資産として管理するための活動がデータマネジメントであり、このデータマネジメントが適切に実行されるよう、ルールを作り、そのルールを権限を通し監視統制することが、データガバナンスです。そしてデータマネジメントとデータガバナンスはビジネス側の組織的能力(ケイパビリティ)でもある。
ということです。
これだけを読むと、なんだルールづくりとかそれを守らせるための体制づくりのことか、と思われてしまうかもしれません。
また、よくあるデータガバナンスの定義の勘違いとして、”データセキュリティに対するガバナンスをデータガバナンス”と捉えていたり、”データガバナンスツールを導入することをデータガバナンス”と捉えている話もよく耳にします。
確かに、これらもデータガバナンスの内容の一部ではあります。しかし、DMBOKや、John Ladley氏の著書で述べられるデータガバナンスの全体像を捉えているわけではありません。
この辺りについて次回以降詳しく見ていきたいと思います。
最後に
今回はかなりの文章量となってしまいましたが、最後までご覧いただきありがとうございました。次回以降、データガバナンスのより深い内容に踏み込んでいきたいと思うので、ぜひついてきてください!
本日は以上です。それでは!!