知財戦略について学んできました 2
2021年7月28日に福岡県中小企業振興センタービルにて知的財産セミナー
特許実用新案制度の概要について講義を受講してきました。
講師:特許商標デザイン事務所SHIGE 山下滋之先生
まずは特許についての理解から始まりました。特許権とは自然法則を利用した、新規かつ高度で産業上利用可能な発明を保護するものであり、これは発明品に対して定義されいます。対して実用新案とは、物品の形状、構造、組み合わせに関する考案を保護するものです。これは考案したものに対して適用されます。
特許権とは新規な発明を創作し、最も早く出願したものに与えられる独占排他件です。特許権の存続期間は、特許出願の日から20年間となります。独占排他権では他人が無断で特許発明を利用した場合、特許権者は侵害行為を停止させ(差止請求権)、特許侵害によって被った損害を賠償してもらうことができます(侵害賠償請求権)。ここで特許権が効力を発揮するのは登録が終了してからになることは注意しておく必要があります。
特許権の取得によって得られるメリットは、市場のシェアを高めることができること、提訴されるリスクを軽減することができること、広告宣伝効果、ライセンス収益を得ることができること、従業員へのインセンティブを与えることができることが考えられます。ですが知財戦略を営業秘密として管理することができるのであればクローズにして、秘匿化・独占実施・独占ライセンスという戦略をとることも考えることができます。ですので、会社の知財戦略としてオープン戦略をとるのか、クローズ戦略をとるのかは十分に検討する必要があります。
特許とは別に実用新案というものがあります。実用新案とは自然法則を使用した技術的思想の創作であって、物品の形状、構造又は組み合わせにかかるものを保護の対象とします。つまりモノが対象になるのであって、方法にかかるものは対象となりません。また特許法の保護対象とは異なり、技術的思想の創作のうちの高度なものであることは必要としません(特許庁のウェブページより)。ですが、実用新案出願登録は決まった手続きと一定の基礎的要件のみが審査されて、短期間で登録されます。審査時間も短く、特許に比べて低コストで登録することが出来ますので、それをメリットととらえることもできます。ですが、実体審査が行われないので、先行技術や第三者の先願がある場合には無効理由があることになりますので、出願前にしっかりと調べておく必要があります(特許と違い出願前に教えてもらえません)。特許と比較してのデメリットとしては、権利機関が短いこと、権利行使後に実用新案登録が無効にされると、損害賠償責任が発生します。登録後に、明細書に書かれた技術を権利化しようとしても、補正や分割出願ができない場合があるというデメリットがあります。特に損害賠償責任が発生すると会社に大きなダメージを与えかねないので、権利の行使には慎重な判断が必要になります。
上記のことより、実用新案と特許制度は製品や状況に応じて使い分ける必要があります。講義のなかでは「どちらを登録するにしても手間はかかるものなので、どちらかを登録する必要があるのであれば、特許を登録する方がよい」と話されていました。特に中小ベンチャー企業に対しては、特許料の減免措置等の支援が手厚くなっていますので使用するのがよいと思われます。
ワークショップでは鉛筆を題材に、発明は通常従来技術に対する改良から生まれるということを体験しました。発明には従来技術の課題、つまり発明が解決しようとする課題を把握すること。課題を解決するための最低限の構成を抽出することが必要になります。自分の中で印象に残ったのは、ワークショップ中のアイデアの発想の方法で、課題の解決方法を考えるときに、物理的な(ある意味アカデミック)考え方を試していったことが印象に残りました。よく考えてみると当然のことなのかもしれませんが、とりあえず思いついたことを片端から試していく自分からすると新鮮に感じました。
今回の講義から学んだことは、企業の知財戦略というものは複数あり、自分たちがどのような戦略で事業を進めるかにより、とるべき知財戦略が変わってくるということです。例えば特許に関しては、特許登録料や特許を維持するためのお金がかかること、1年6カ月後に内容が公開されることを考慮すると、内容を自社内で秘匿できるのであればあえて特許を取得しないという選択肢もありえます。また実用新案を取得しておくという方法も考えられますが、企業としてオープン戦略とクローズ戦略についてしっかりと考えておく必要があります。
最後に事例紹介で用語の射程範囲が限定解釈されたケースを扱いました。特許を取得する際にはなるべく抽象的に、解釈される範囲が広くなるようにとるのがよいとされています。取り扱ったケースでは、かなり広い範囲に解釈できる文言で特許を取得していましたが、その請求項の文言が抽象的過ぎて、結果的に実施の形態のところに書いた構成に限定解釈されたケースを扱いました。このケースからわかることは、出願時に思いついた代替手段は例えそれがボツ案であったとしても記載を検討するひつようがあること。実施の形態の構成については思いつく限り載せておいた方がよいかもしれません。ただし、削れるところは削った方が意味を広くとることができますので、バランスが重要になります。
このことからも知財戦略には、こうすれば正解というものはなく、企業としての事業戦略とその時の状況から判断する必要があると考えられます。そこで、よくン練り上げた戦略で進めるためには、社外の専門家の力を借りることは当然ですが、常日ごろから知財関係の情報をチェックしておく必要があると考えられます。
参考情報
特許庁 https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/seidogaiyo/chizai04.html
もうけの花道テキスト https://www.chugoku.meti.go.jp/ip/doc/text_no50.pdf
弁理士SHIGE【知財の絵本】 https://www.youtube.com/watch?v=tS_8dpl4qno&list=LL&index=31