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スタンド・バイ・ミー【第一回サイゼ文学賞(非公式)】

「美味しいイタリアン知ってるよ」

大学のサークルの一人の女の子が言った。

サークルのみんなで集まって渋谷での食事会の後半、2次会をどこにするか話し合っているときだった。

「いいね。そのイタリアン、どこにあるの?」

「私の家の駅の近くなんだけど、こないだお母さんに連れて行ってもらったんだ」

「おお、じゃあ、期待できるね」

「家はどこにあるんだっけ?」

「埼玉の越谷だよ」

「あ、ちょっと遠いね。だけど、美味しいイタリアンだったら行ってみたいなあ」

サークルでの仲良しグループは男女6人で住んでいるところも東京や横浜でみんなバラバラだ。

「まあ、他に店も決まってないから、行ってみようよ」

「そうだね」

6人は店を出て、渋谷から電車に乗って、越谷駅に着いた。

およそ1時間くらいかかったのだろうか。

若さとは素晴らしいもので、気が合う仲間同士でいると、電車の中であっても時間を忘れてしまうものだ。

「あっ、もう着いたんだね」

「イタリアン楽しみだね」

6人は口々につぶやいていた。

「イタリアンはどこにあるの?」

「駅の近くだよ。ほら、もうすぐ。あれだよ」

みんなの目に飛び込んできたのは、緑の看板に赤い文字で『サイゼリヤ』と書かれている。

「えっ、サイゼリヤなの?」

「あ、知ってるの?ここ有名なのかな」

「知ってるも何もさっきの渋谷にもあるよ」

「えっ、そうなの?越谷にしかないのかと思ったよ」

「いろんなところに店舗あるよ」

「まあ、いいよ。入ろうぜ。それから、話そうか」

「そうだな。東京や横浜に住んでる俺らからしたら、越谷のサイゼリヤに入るなんて滅多にないからな」

「俺、ミラノ風ドリア食べよ」

「ドリンクバーは絶対に頼もうね」

「私は辛味チキンが好きだよ」

「あっ、辛味チキン美味しいよね」

「辛味チキン6人いるから4人前くらい頼もうか」

「どうせなら辛味チキン6人前頼めばいいんじゃない?1人1皿余裕でしょ」

「そうだな。女性陣が食べれなかったら、男性陣が食べるよ」

そんなことを口々に言いながら、サイゼリヤのドアは開いた。


(833字)

福島太郎@kindle作家さんの企画に参加させていただきました。

※当時、スマホもガラケーもインターネットもない時代。レストランの情報は雑誌や折り込みチラシや人づての口コミから情報を入手していたような気がします。


*この記事は、以下の企画に参加しております。


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深遠 たた
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