沈む寺(2作品目)【毎週ショートショートnote】
深い森の中、何本もの林道を越えて、道のない森に入り、やっとたどり着ける場所。空気が違う。土の匂い、森の匂い、水の匂い。それらを濃く凝縮したような空気だ。そんな空気の中に、その寺はあった。寺は朽ちずに形を留めていた。階段は苔むして苔の緑に覆われている。階段の周りには群生している砥草の影に隠れる蠑螈、羊歯にしがみつくヘビトンボ。そして、ドッ、ドッ、ドッと地響きのような音が聞こえてきた。体調2m以上あろう巨大な雄鹿が現れ、その雄鹿はこちらに顔を向けじっと私を見ている。森の使者が迎え