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連載小説 ダイスケ、目が覚めたってよ(1)~(14)

今まで掲載した(1)~(14)をまとめたものになります。整理も兼ねて掲載したいと思います。

文字数としては6,000字を超えたところになりました。塵も積もれば小説となるような気持ちで執筆しております。

駄文となりますが、読んでいただいた方にはお礼を伝えたいと思います。
本当にありがとうございます。

それでは引き続きよろしくお願いいたします。


転生ショートショート 私は転生したらヘビになったみたい (続き)からの続きになります。


(1)

激しい落雷の音でダイスケは目が覚めた。

「あ、あれ、ここはどこだ」

「あら、目が覚めたのね。ここは病院よ。用水路に落ちて気を失ってたのを近くにいた人が通報してくれて救急車で運ばれたのよ」

近くで看護師が作業をしていて答えてくれた。

「あ、アカリは?」

「アカリさん?誰かしら。用水路に落ちたのはあなた一人で運ばれたのはあなた一人よ」

「えっ」

ダイスケは耳を疑った。何が起きたのか、今何が起きているのかを把握できなくなって頭が真っ白になった。

「僕のスマホとか洋服はありますか?一度父と母に連絡を取りたいです」

「その横のロッカーに全部入れてあるわよ。汚れたままになってるわ。ただ、用水路はほとんど水が流れてなかったからそこまで濡れてはいなかったわよ」

「あ、ありがとうございます。ちょっとロッカー見てみますね」

ダイスケはベッドから降りて立ち上がろうとしたが少しふらついた。

「大丈夫?まだ寝てた方がいいわよ。携帯が入っているカバンだけとってあげましょうか?」

「すいません。ちょっと取ってもらっていいですか?」

看護師は作業していた手を止め、ロッカーからカバンを取りダイスケに手渡した。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

ダイスケは急いでスマホを手に取り、親よりも先にアカリに連絡しようと思った。

「あ、あれ」

アカリの名前がスマホに入っていない。メールのやりとりも全部入っていない。

スマホはパスワードがかかっていて誰も開けないはずだ。誰かが消去したとは考えづらい。

つづく


(2)

「とりあえず、母にっと」

ダイスケは動揺を悟られないようにわざと看護師に聞こえるように声に出した。

「あ、お母さん?今大丈夫?」

「あんた、どうしたの?昨日は帰ってこないで」

「酔っ払って用水路に落ちて今病院だよ」

「えええ。体は大丈夫なの?」

「体はとりあえずどこもケガはなさそうだよ」

「良かった。心配させないで」

「ところでアカリから連絡はきた?」

「アカリさん?誰かしら?」

ダイスケはその言葉を聞き血の気が引いた。動悸も激しくなりうっすらと汗もかいていた。

「彼女のアカリだよ。お母さんにも紹介して何度も会ってるでしょ」

「全然知らないわよ。あなた彼女なんていないでしょ」

「ごめん。。。ちょっと電話切るよ」

何が何やらわからなくなっていた。アカリがいたことを忘れているのか。自分の記憶がおかしいのか。

「わかったわ。何かあったらすぐに電話しなさいよ」

「うん。わかった」

ダイスケはそっと通話を切った。

つづく

(3)

「すいません。もう退院してもいいですか?」看護師の顔色を窺うように質問した。

「あ、もう大丈夫ですよ。外傷もないようなので受付に行って退院手続きしてください。気持ち悪くなったりとかしたらすぐに連絡くださいね」

「わかりました。本当にご迷惑をおかけしました。いろいろとありがとうございます」

そう言って受付を済ませダイスケは病院を出た。

とりあえず、落ちた用水路に行ってみるかーダイスケはアカリのいない世界でわらにもすがるような気持ちでいた。

太陽が見えてはいるがどしゃ降りの雨のあとで歩道はまだ濡れている。


ダイスケは看護師さんに聞いてあった用水路に着いた。

ここが落ちた用水路かー用水路はどしゃ降りの雨の影響か結構強く水が流れている。ダイスケが落ちたときはまだ雨が降っていなくてほとんど水が流れていなかったらしい。

アカリの痕跡ないか探すために、ダイスケは辺りを見回した。

あ、あれは・・・・・・ーダイスケは林道の入り口を見つけた。そこはダイスケがカエルに転生して目が覚めた場所によく似ている。

「この土、この植物、この匂い、あの場所だ」ダイスケは確信した。

ダイスケが確信した瞬間、草むらからガサガサと音が聞こえた。

つづく


(4)

ダイスケが草むらの方へ視線を向けると、一匹のヘビがいた。

「まさか・・・・・・アカリなのか・・・・・・」ヘビに言葉が通じるわけがないのだがダイスケは一縷の望みをかけたのか動揺していたのか、声に出していた。

そのヘビはダイスケの姿を見て固まっているように見えた。

ダイスケが一歩踏み出したときにカエルのときの記憶がよみがえった。

生温かい土の蒸気、生命力のある植物の熱気、捕食される側の意識。

この確信的な経験したことがあるという記憶。ダイスケは間違いないと確信していた。

「アカリ・・・俺だよ。ダイスケだよ」

そのヘビはその場でとぐろを巻いて下を向いている。

ヘビに一歩一歩近づく。あのヘビはアカリだ確信していた。だが、ダイスケの手足はその意識と反して震えている。血流が体のどこかで滞留しているのか、頭の中が真っ白になり思考ができなくなっていた。

現実なのか本当なのか、本当なのは何か。自分が正しいのか間違っているのか。わからないことに対する恐怖で震えていた。

つづく

(5)

ダイスケはヘビまであと3歩というところまで近づいた。

近づけば近づくほどカエルのときの記憶が濃く湧き上がってくる。その記憶は短かったが濃密な記憶だった。

もうヘビの顔もよく見えてあのときのヘビのように見える。ほぼ間違いないとまで確信していた。

だが、ダイスケがヘビのお腹の中で決意したことがあった。ヘビとカエルでは愛し合うことはできないだろうということだ。

そして、ヘビと人間で愛し合うことなんてできないだろうと考えてしまった。

その瞬間、ヘビはとぐろを巻いたまま顔を上げ天を仰いだ。

その視線の先を見ると、一匹のモンシロチョウが弱々しく飛んでいた。

もう、今にも力尽き、落ちそうになっている。

二人はじっとそれを見ていた。

つづく

(6)

そのモンシロチョウの羽はぼろぼろになっている。

ダイスケとヘビの周りをふらふらと3周くらい回ったところで力尽きその羽ばたきを止めた。空中でひらひらと落ちる花びらだった。

花びらは落ちヘビの目の前に横たわった。羽は閉じていたがかろうじて手足は動かせるようだった。

ダイスケは急に現われたモンシロチョウが力尽きるのを見て、命の儚さを感じていた。

すると、ヘビはそのモンシロチョウを食べてしまった。

「ア、ア、アカリ・・・・・・?」

ダイスケは顎は震え前屈みになりヘビの口元を見つめていた。

鱗粉で口元は白くなっていた。

ダイスケが呆然として立ち尽くしているとき視界に人が走ってくるのが見えた。

「すいませーーーん」

女性の声が聞こえてきた。

「ちょっと、ちょっと待ってくださーーーい」

続けてダイスケに対して言っているようだったが、ダイスケは何を待つのかわからずにいた。

つづく

(7)

はぁ、はぁ、はぁー長い距離を走ってきたようで、ダイスケの前に着いたときにはその女性は息が切れ声が出せないでいた。

その女性が声を発するのを待っているのもあれだったのでダイスケから声をかけた。

「どちらさまですか?何かありましたか?」

「ダイスケさん・・・」

ダイスケは突然自分の名前を出され困惑した。その女性のことを思い出せない。

「ええっと・・・だ、誰でしたっけ?」

「ダイスケさん、私はアカリの妹です」

「えっ・・・妹?」

そう言われた瞬間、ダイスケはその部分だけ霧が晴れていくように思い出した。

「はい、妹のナナミです。姉とダイスケさんをずっと見てましたよ」

「そうだよね。ナナミだったね。何回も会ったことあったね。急に思い出したよ」学生服っぽい服を着た背が低く黒髪のナナミを見て、ダイスケは記憶にナナミがいたことを思い出していた。

「ダイスケさんが姉と会うときに一緒に食事もしたことありますよ」

「そうだったよね。ところで見ていた・・・って?」ダイスケは今の今までナナミのことをなぜ忘れていたんだろうという疑問もあったが、「見ていた」とはどういうことかわからず先にそれを聞いていた。

「二人が用水路に落ちてヘビとカエルになったところからずっと見てましたよ」

ダイスケはアカリの手がかりとなるナナミが出てきただけでちょっと安堵したが、その安堵と同時に胸の奥によくわからない不安が広がっていた。

つづく


(8)

「ヘビとカエルになったところからずっとってどういうこと?」

「わたしはその時はモンシロチョウだったんです」

「なるほどモンシロチョウね・・・って。さっきの食べられた羽がボロボロのモンシロチョウかな。ツッコみどころ多すぎてぜんぜんわからないんだけど・・・」

「あなたたちがいたこの場所のそこの植物の葉っぱの上にいたんですよ」とヘビの後の植物を指さした。ヘビは相変わらずとぐろを巻いているがさっきのモンシロチョウを消化している途中なのかお腹はわずかに動いていた。

「じゃあ、やっぱりあのヘビはアカリなのか・・・さっきの食べられたモンシロチョウはナナミだったの?アカリに食べられていたよね」

「食べられましたね。姉に食べられることで意識が人間に戻るんですよ」

「ふむふむ。なるほどね。ということはやはりこれは現実なのかな。だけど完全にオカルトチックでまだ信じがたいんだけど」

「オカルトチックではなくてオカルトなんですよ」

「オカルト?」

「この現在の人間世界では『オカルト』は『神秘』とか『超自然的なもの』とかそう定義されてますよね」

ナナミはちょっとドヤった顔をしながら答え、言葉を続けた。

「そして、これは、今から何十年後かのシンギュラリティのその先にある科学で、やっと『測定』できる現象ですからね。姉はそれを『コントロール』できる存在なんですよ」

つづく


(9)

ナナミがダイスケに説明をしているとヘビのアカリも顔を上げた。心なしかドヤ顔のようにも見える。

ダイスケは疑問がたくさんあり質問したいこともたくさんあった。

「アカリは今はしゃべれないのかな。意思疎通はできないの?」

「今はできないですね。食べられるか噛まれるかすれば会話できますよ」

「あ、噛まれれば言葉通じるようになるんだね。だけど、噛まれても大丈夫?毒とかないかな。俺は人生でヘビに噛まれたことないから怖いね」

ダイスケはナナミに情けない話をしたような気持ちになり後頭部を掻いていた。

「毒はないですけど痛みはありますよ」

「そっか。俺は注射怖い人なんだけど大丈夫かな」

「注射より痛いとは思いますよ。そこはダイスケさん次第ですね」

「まあ、アカリと話すためだからね」

「そうですよ。それくらいは我慢してください」

ダイスケはナナミの言葉を聞いて「確かに」と心の中で思った。

アカリは相変わらずとぐろを巻いて微動だにせず二人を見ている。その目はヘビとは思えない眼光を放っていて、この世の理をすべて理解しているような慈愛のまなざしだった。

つづく


(10)

「ところでナナミはモンシロチョウのときに食べられてここに来るの早かったね」

「姉に時間も調節してもらったんですよ」

「時間を調節・・・・・・?」

「ええ、戻る時間を少し過去にしてもらったのでちょうど良くここに来ることができました」

「なんかあっさりとすごいこと言ってない?」

話を聞いているダイスケは目を丸くしゴクリと唾を飲み込んでかろうじてナナミと会話を続けていた。

「姉は時間と時空もコントロールできる存在なんですよ」

「えっ・・・・・・時間と時空?」

ダイスケは自分の愛していた思い出のあるアカリは何者なんだという恐怖とそのようなすごい能力に対する興味と実際にその能力を目の当たりにしてみたいという関心が入り交じっていた。

つづく


(11)

「時間と時空の他にあとは世界線もコントロールできますね。今の世界線は姉がいなかった世界線のようですね」ナナミはナナミ自身もある程度もアカリの不思議な力を理解しているような口ぶりで話した。

「たしかにアカリのことを知っている人がいなかったし、俺の携帯にもアカリの痕跡がなかったよ。世界線が変わっちゃってたんだね」ダイスケは携帯を手に取りもう一度確認しながらナナミに伝えた。

「世界線が変わったっていうことはうまくいったということね」

「えっ?」

「なんでもないわ。独り言よ」

「ていうか、まず何をどうすればいいんだろう。ナナミは次にどうすればいいのかわかるの?」

「一応、わかってるわ。お姉ちゃんを連れて一度家に帰りましょう」

「連れて帰るってどうやって連れて帰るの?」

「このカバンに入れて帰りましょう」と言ってヘビのイラストが描いているトートバッグを取り出した。

「じゅ、準備いいね」

「わかってましたからね。用意しておきましたよ」

ダイスケはどうしていいかわからず、もうナナミに行動を任せるしかなかった。

つづく


(12)

ナナミはとぐろを巻いているヘビをやさしく抱いた。「大丈夫だよ」とヘビに一言つぶやき、ヘビイラストのトートバッグの中にそっとヘビを入れた。

ダイスケはナナミがヘビをバッグに入れる姿を見て少し安心した。

「ところで、家に帰るって俺の家に帰るってこと?」ダイスケはナナミに尋ねた。

「そうよ。他にどこがあるの?」

「アカリの家は世界線が違うからもうないのか。そうだよね・・・」質問に質問で返されナナミは気が強そうだなとダイスケは思った。

「じゃあ、行きましょ」

「了解、ここから歩いて行ける場所だからついてきて」

「私も知ってるわよ」

「そっか。前にアカリと一緒に来たことあったかもだね」

「・・・・・・」ナナミは薄い笑みを浮かべなぜか黙っていた。

つづく


(13)

「ただいま~」ダイスケはナナミを家に連れてきたことを思い出してハッとした。アカリのいない世界線で急にナナミを家に連れてきてしまっていたのだ。

それでなくてもナナミは中学生か高校生に見える。せめて年齢を聞いておくべきだったかと思ったが、女性に年齢を聞くのは失礼なので年齢を聞くのは後ででいいかと思い直した。

母にナナミのことを聞かれたらとりあえず友達ということにしておこうとダイスケは瞬間的に考えていた。

「おかえりなさい。あら、珍しいわね」母が玄関に出てきていて2人を見て言った。

「いや、こ、こ、これは違うんだ。ちょっと、た、た、たまたまで・・・・・・・」ダイスケは頭の中が真っ白になりしどろもどろになった。

つづく

(14)

「たまたま駅で会ったから一緒に帰ってきたのよ。ねぇ、お兄ちゃん」ナナミがダイスケのことをお兄ちゃんと呼んだ。

「お風呂あるからナナミから先に入りなさいね」

「はーい。お兄ちゃん、お先に~」とナナミがダイスケに言った。

「お、お、お兄ちゃん?い、い、妹?」一人っ子だったダイスケはその言葉にも動揺した。

その瞬間、ナナミが自分の妹だったという今の世界線の記憶がすごいスピードで流れ込んできた。

ダイスケはアカリといた世界線の記憶の上に今いる世界線の記憶が上乗せされていた。それはあたかも記憶の層のようになっていて両方の世界線の記憶を参照できるような感覚だった。

え、あ、そういうことか。そういうことだったのかーダイスケは心の中で歓喜した。ナナミも含めた家族全員一緒だったときの記憶でその懐かしさと幸福感に包まれていた。

つづく











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深遠 たた
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