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夜からの手紙【毎週ショートショートnote】

月明かりが照らす静かな森の中を、私は一人で歩いている。月が雲に隠れ、風が吹いて、木々がざわめいている。ざわめきが大きくなってくると、本当の闇が訪れ、湿り気のある空気はより湿ってきた。大きな朴(ホオ)の木の葉っぱが一枚、私の目の前に落ちてきた。「夜からの手紙……」私はそうつぶやいた。雲の切れ間から、月の光が降り注いでいる。その光を浴びて、ぼんやりと明るくなった朴の葉を拾い上げた。月光に照らされた葉は緑色に光り輝いていた。闇の中にも光があり、緑がある、色彩があるんだよと夜が教えてくれたような気がした。私はそっと朴の葉の香りをかいだ。森のすべてを溶かし込んだような香りだった。私は空を見上げ、夜に感謝をした。

家に戻ると母が、温かいご飯を用意して待っていた。「早く食べないとご飯が冷めるわよ」と母が言った。私は「うん。わかった」と一言だけ言った。椅子に座ってご飯を食べた。母は私のことを見ている。私はご飯のおかわりをした。


(410字)


たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。

※一人称ショートショートにしてみました。


*この記事は、以下の企画に参加しております。


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