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バンドを組む残像【毎週ショートショートnote】

夏が終わりに近づき、夜が少し早くなった。

ちょっと肌寒くなった夕方、あいつがバイクで事故った。

信じられなかった。

あいつはもういない。

あいつはもう戻らない。

俺たちの夢の約束をしたばかり。

あいつがいなくなったなんて信じられない気持ちだけが、壊れたミキサーのように俺の中で反芻している。

だけど、答えを出したかった。

想像の中でもいいから、あいつと一緒に最後の演奏をしたい。

一緒にライブを演ろうと話してたライブハウスに入れてもらった。

誰もいない真っ暗なステージの前で、俺はiphoneを取り出し、音量を最大にして俺らのスタジオでの録音を流した。

その瞬間、ステージがぼんやりと少し明るくなったように見えた。

あいつがこの一瞬だけ戻ってきたのか、俺はそう思った。

そのとき、あいつが吸っていたたばこの匂いがした。

あいつの声が今にも聞こえてきそうだ。

俺は目をつぶり昔を思い出した。

まぶたの裏にはあいつとバンドを組む残像だけが静かに残っていた。


(410字)


たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。

※エモショートショートにしてみました。


*この記事は、以下の企画に参加しております。


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深遠 たた
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