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沈む寺【毎週ショートショートnote】

雲もなく、風もなく、明るい満月が夜空にぽつんと浮かんでいる。

住職は寺の建物の中からそれを眺めていた。

いつもと変わらない明るい光、やさしい光、そんな光に住職は手を合わせて感謝を祈った。

祈って顔を上げたとき、いつもよりもわずかだが月が高いように感じた。

住職は不安な心持ちで寺の外に出た。

いつもと変わらない月だ。

戻ろうと思ったとき、寺がわずかに動いて沈んでいるのに気がついた。

建物は壊れるわけでもなく、それはゆっくりと沈んでいく、まるで流砂に飲まれるように。

そして、それに気付いた他の住職や職員が建物から出てきた。

皆一様にそれはそれは驚いていて、警察に連絡している者もいれば、スマホで撮影している者もいる。

一方で住職は一人ただ「沈む寺」をじっと見ていた。

沈みは途中で止まるのか、それとも建物全部が沈み込んでしまうのか。それは誰にもわからない。

住職はわずかな期待をもって、空に浮かぶ静謐な満月に、これ以上沈まないでくれと願った。


(410字)


たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。

※人の心を表現するということは難しいものです。


*この記事は、以下の企画に参加しております。


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