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沈む寺(2作品目)【毎週ショートショートnote】

深い森の中、何本もの林道を越えて、道のない森に入り、やっとたどり着ける場所。空気が違う。土の匂い、森の匂い、水の匂い。それらを濃く凝縮したような空気だ。そんな空気の中に、その寺はあった。寺は朽ちずに形を留めていた。階段は苔むして苔の緑に覆われている。階段の周りには群生している砥草の影に隠れる蠑螈、羊歯にしがみつくヘビトンボ。そして、ドッ、ドッ、ドッと地響きのような音が聞こえてきた。体調2m以上あろう巨大な雄鹿が現れ、その雄鹿はこちらに顔を向けじっと私を見ている。森の使者が迎えに来たかのようであった。私が一歩足を踏み出すと、その雄鹿は大きな足音を立てて森の奥へ去って行った。そのとき、びゅうっと風が吹いてきた。断続的に吹いてくる風は強さを増して、風の波となり、私の心と身体を揺さぶったけれど、その風に負けないように私は寺に近づいた。その寺は近くで見ると、まるで海に沈んだ難破船のようであった。そう、ここは森に沈む寺。


(410字)


たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。

※急に自然描写がしたくなりました。


*この記事は、以下の企画に参加しております。

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深遠 たた
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