放生会

放生会

放生会という祭りに行った

ここでは食べるために殺してはいけない

多くのいのちが参道に放たれた

犇くばかりの人

両脇にずらりと並んだ屋台

これらは全ていのちであるので

食べてもいけないし殺してもいけない

眼鏡のおじさんは唐揚げを買った

女子高生達はチュロスを買った

食べることは生きることなので

自分を殺してはいけない

人が屋台に並ぶのは善いこと

とても多くの人が食べるために歩いて

ぶつかり、出会い、渦になって

ひとつの方向を目指していた

ひとり、参道の端から端まで何も買わずに歩く人がいた

こはくくんという男の子が迷子になっていた

唐揚げもチュロスもいのちであるので食べるために

殺してはいけない　或いは捕らえても

いのちは放たれなければならない

屋台に並ばない人は善いことだと信じた

祭りの終わりにこはくくんはようやく参道を歩いて

唐揚げもチュロスも売り切れていて

売れ残った金魚をかわいそうだと

こはくくんはトイレに逃し

渦の中に

唐揚げとチュロスとあなたと犇くばかりの人が

これらは全ていのちであるので

ゆっくりと出会い、ぶつかり

祭り囃子は遠く

水の底へと流れて行った