考える秋

考える秋


 私の中で鈴虫の天ぷらと舞茸の天ぷらは同じイメージである。鈴虫ってあんまりよく見たことがないが天ぷらにすると多分舞茸みたいに傘が張って肉厚で美味しい。舞茸はこの季節にはそこらじゅうに(何処だ?)に生えているだろうし、姿は見えないが鳴き声だけは聞こえてそこらじゅうにいること確定な鈴虫にはぴったりだ。そういえば舞茸って鳴き声あるのだろうか? あるとしたら多分「きゅっ」とかそんな感じだろう。旨味成分のグルタミン酸が詰まって凝縮して鳴く感じ。きのこ類は冷凍すると旨味成分が凝縮して美味しくなるらしいし、私の冷蔵庫がきゅって鳴く音がする。きゅっどころかしめじやら南瓜やら秋の味覚で最近の私の冷蔵庫はぎゅーぎゅーである。

 秋ってなんでこんなに過ごし易いんでしょう。暑くない寒くない花粉も黄砂もPM2.5もない冷蔵庫のキャパもない鈴虫の天ぷらをどうやって食べたら良いかわからない。天ぷらには塩派だが何となくおろしポン酢も合うような気がするし、最近さつまいもや南瓜の天ぷらをチーズソースなるオシャンなもので頂いたがそれも美味しかった。月見バーガーも何種類かある中でチーズ月見が一番美味しいしチーズは秋の月色をして綺麗だし、チーズ鈴虫天、アリかもしれない。如何せんチーズは胃の底に溜まり沈む(摂食障害界隈では食べたら胃の下に行って吐きにくいことを「沈む」という)のだけれど、最近チーズが沈んでいるんじゃなくて食べた自分が浮かび上がっているのだと思うことにしている。芋栗南瓜も底に沈むけど食べたら美味しいし気分は上がって、浮き浮きした気分になる。自転車に乗ると風が気持ち良いし、何となく立ち漕ぎしたくなる季節になった感じ。私はこの秋自転車をゲットして美味しいものを食べ回っている。

 自転車じゃないと辿り着けないところがいくつかあって、ひとつは月。自転車に乗った主人公のシルエットが月と重なるETの超有名シーンにもあるように、月には自転車じゃないと辿り着けない。実際私の家からマックまではチャリじゃないと行けないし、チャリで行ったら3店舗はあって、月見チーズバーガーはこの秋3回以上は食える。やったぜ。ふたつは近所のスーパー。私の家からスーパーまでは800mくらいあって歩けないことはないのだけれど買い物に行くと絶対冷蔵庫がキューキュー悲鳴をあげるくらい大量に買い込むものだから、チャリじゃないと行けない。そんな重たいの持って800mも歩けない。それに家に帰るまでは重い腹減ったはよこの中身食べたいと超絶イライラしているのだけれど、自転車に乗っちゃえば秋風がふっと吹き心地良く、坂では重さのあまりスピードが出て風は一気に強くなり私の額や腕を楽しげにこそぐりぐんぐんと家に近付いていく。なんと楽しいことよ。近所のスーパーは24時間営業で24時間、特に夜にこそ行きたい。そしたら月も出ているし、ついでに月寄って月面にフライドポテトぶっ刺せる。なんと近所のスーパー第2号の中にはマックが入っていたし最高。チーズ月見食いながら舞茸と南瓜の天ぷらの具材を買って帰れるということだ。当然帰り道でも鈴虫は鳴いていて、ポテト片手ハンドル片手に夜道を見渡すのだけれどやっぱり何処にも姿は見当たらない。そりゃあ自転車は空を飛ぶかのように走るし(実際月面に辿り着く!)、鈴虫も舞茸も地に生きているのだし当たり前なのだが、見付からなくても浮き浮きした気分になるのは、多分自転車が空を飛び私の身体共に「浮いて」いるのと、籠の中の袋に舞茸が入っているお陰。虫だけに無視しても私の鈴虫はちゃんとスーパーで捕らえられるのだ。揚げたらどうなるかな、衣付けて箸の先で挟み熱せられた油に落とす瞬間、命辛々きゅーきゅー鳴く姿はとても愛しく、大丈夫だよ安心して、ちゃんとオフトゥン(お布団)も用意したからねとレジ袋の中からチェダーチーズモッツアレラチーズを取り出し練り練りしながら優しく語りかける。この調子でしめじも南瓜も揚げて冷蔵庫の在庫処分したろ。ってしてたら秋の夜長もあっという間に更けて行って、秋ってこんなに良い季節なのになんでこんなに短いのか。食べたいものも考えるのも飽きないのに秋ないね、なんつって。

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