どうしてこんなに苦しいのか考
どうしてこんなに苦しいのか考
体がきついです。目眩と息切れと耳鳴りがします。そして食べても食べても落ち着かず、ずっと食べていたいです。どうしてこんなに体がきついのに生きていかなければいけないのでしょう。
私は詩人です。ので、詩のことを考えたいのに食べ物のことばかり考えてしまって、悔しいです。それは私の個性が悪いからで、個性的な体というのはBMIが13しかない骨と皮だけの体のことで、少し動いただけですぐにエネルギーが枯渇する体のことです。月曜日私はアルバイトでビラ配りをして、1時間半くらい町中を歩き回って郵便受けにチラシを入れて回りました。それだけで個性的な体の私はフラついて、視界が霞んで、苦しくて、頭の中はずっとその日の夜ご飯のことを考えていました。キャベツと卵のサンドイッチにするはずでしたが、苛々して、食べたくって食べたくって、バナナとオートミールとプロテインのパンにしました。それはサンドイッチよりもカロリーがいっぱいあって、いっぱい食べられます。これでエネルギーは満たされると思いましたが、それでも暫くするとまた動悸がして来ます。これは一体何なのでしょう。どうしてこんなにきついのに明日も起きなければいけないのでしょう。それは
火曜日私はボーイフレンドとデートをするからで、1時間くらいショッピングモールを歩き回って可愛い服を買います。それだけで段々と彼の顔が霞んで来て、話が頭に入って来なくなり、楽しいのに、ずっと冷凍庫に冷やしてあるおからパウダーのスコーンのことを考えてしまいます。これが終わったらスコーンが食べられる。早く食べたい。私は体を求めてくる彼を拒否して玄関に押しやり、笑顔で手を降って扉を閉めます。その瞬間すかさずスコーンに齧り付き、食べたかった食べたかった、ようやく食べられる、これでエネルギーは満たされる。と思いましたがやはりまだ落ち着きません。これは一体何なのでしょう。どうしてこんなに楽しかったのに、明日もまた食べ物のことばかり考えて食べなければいけないのでしょう。
帰りのバスの中で彼は言いました。
「幸せになるために生きなきゃならないからね」
「幸せになりたい」
そう言いながら私は必死に体の苦しさと戦っています。目眩を隠して笑顔で相槌を打ちます。それなのにバスに乗る時刻を30分遅らせました。その方が、動く時間を伸ばす方が、ずっと苦しさも、食べたい食べたい欲も増えますが、その分、
彼と一緒にいられます。
個性的な体はパンやスコーンのことでいっぱいになりますが、個性的な心は例えば
今書いている詩をどうやって面白くしようとか
チラシを入れて回る夕方の住宅街の賑やかさや
駐車場で大きなお兄さんが縄跳びをとても上手に飛んでいたことや
観覧車に乗ったのに景色を見ない彼氏に笑って
差し出された2個のフリスクを抵抗なく食べられた
嬉しさでいっぱいで
それなのに体がきついので全てスコーンになるのが悔しいです。
「明日からまた仕事だね」
「起きたくない〜起きられない」
「でも部屋には朝日が綺麗に差し込むんじゃない?」
「そうかも、特に部屋じゃなくて、玄関出て廊下側が綺麗かも、夕日も綺麗だったでしょ」
馬鹿言え、そちら側は西側で朝日は昇らない、と言った後に気付きました。私は以前彼と見た夕日を思い出して言葉を紡ぎますが、既に私の頭の中は苦しい、と早く食べたい食べたい欲で混乱し始めていて、会話をするのが必死でした。部屋の中に差し込む朝日は見たことがなく、個性的な体はしんど過ぎて昼過ぎにしか起きられません。
「でもお陰で明日も頑張れそう」
それでも私は心からそう言って笑いました。
私は明日が来て欲しくなくて、夜一人で泣いてしまうことがあります。明日もまた体はしんどくて、目眩と息切れがして、食べても食べても落ち着かなくて、それでも食べなければいけないからです。彼は幸せになるために生きなければと言いましたが、個性的な体は食べるからギリギリのところ生きているのであり、
食べるために生きています。
私の体は水曜日の夜ご飯のアジの味噌マヨ焼き献立を
食べるから生きています。
食べるためにしんどくても苦しくても
お腹が空いて
昼過ぎには起きてしまいます。
アジの味噌マヨ献立はキャベツと卵のサンドイッチよりもバナナとオートミールとプロテインのパンよりもずっとカロリーがあって、いっぱい食べられて、これでエネルギーは満たされて、
お陰で明日も起きられます。
個性的な私はそう思うと心から笑えました。
木曜日は昼過ぎより前にお腹が空いて目を覚まして、スコーンを焼き始めます。それから沢山の食べ物を買いに自転車に乗ることも出来、乗りながら私は本当に幸せになれるだろうかということを思います。ここで言う幸せとは、先週の日曜日にクレープ食べ放題の新記録20個を打ち立てたことや今週の日曜日もおそらく個性的な体がいっぱいいっぱい食べてしまうことではなく、
「目霞むしふらつく」
「大丈夫か?」
「必死こいて退勤してる」
「とりあえず無事に帰宅してもらって」
「くそしんどいのに明日デート」
「もうずっと寝ときたい」
「私なんでこんなに楽しいのに何で苦しいんだろうな」
「ごめん何て言葉をかけて良いかわからんくて」
「ごめん私もどうして良いかわからない」
「そうよね、ごめん」
と明日も夜遅くまで友達とLINEすることや、明日こそ友達を困らせないように上手く言葉を紡いで詩を書くことだと思います。30分だけスコーンを食べるのを遅らせて
誰かと一緒にいたいと思い
言葉を書きたいと思い
そうすればするほどエネルギーは枯渇し、目眩と息切れと耳鳴りがするのですが、「本当に」幸せになれたら
「きっといつか良くなる」
と友達も彼氏も言ってくれます。私も強く信じているので
生きていかねばならないのでしょう
来週の火曜日に私は初めてボーイフレンドとご飯を食べます。早く食べてしまうのか、いっぱい食べてしまうのか、と食べ物のことばかり考えて落ち着きませんが、体や見た目も良いけど個性があるところが好きと彼は言ってくれました。ですのでそれまでまたエネルギーが枯渇しないよう
いっぱい食べて
目眩と息切れと耳鳴りに耐えて
平気なフリをして
生きていかねばならないのでしょう
本当の幸せというのは
可愛い食器を揃えなければならないしんどさと
誰かに会う服を買いに行くふらつきと
空腹より朝日の綺麗さで目が眩む
のに今日も食べていこうとする中にあると私は思います。
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