晩翠怪談 第19回 「浮魚」「目の屋敷」「横切るもの」
割引あり
■浮魚
今から三十年ほど前の晩夏、宮城県の中西部に暮らす明石さんが、こんなものを目撃している。
週末の昼下がり、当時中学生だった明石さんは、近所にある小さな溜め池へ釣りに出掛けた。
現地に到着すると、深緑色に淀んだ沼の宙に何かが浮いているのが目に入る。
鮒だった。全長二十センチほどの魚体をした、見た目はなんの変哲もない銀色の鮒である。
だが、浮いている。鮒は水面から一メートル近い高さの虚空に絵葉書のごとくぴたりと留まり、小さな口だけをぱくぱくと動かしている。
明石さんが唖然となりつつ様子をうかがい始めてまもなく、鮒は突然、物理法則というものを思いだしたかのように宙から水中へざぶんと身を没した。
あとには泡交じりの波紋がしずしずと揺らめき始めたので、自分の目の迷いではないと思った。その日は普通に釣りをして帰り、その後も折に触れては溜め池で釣りを続けていたのだけれど、斯様に奇妙な光景を目にしたのは、この時だけのことだったという。
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