郷内心瞳

宮城県出身、在住の作家。著書に拝み屋シリーズとして『拝み屋怪談 花嫁の家』『拝み屋念珠…

郷内心瞳

宮城県出身、在住の作家。著書に拝み屋シリーズとして『拝み屋怪談 花嫁の家』『拝み屋念珠怪談 奈落の女』(角川ホラー文庫刊)、『拝み屋備忘録 怪談人喰い墓場』(竹書房怪談文庫刊)、共著に『超怖い物件』(講談社文庫刊)がある。「拝み屋怪談」シリーズはドラマ化された。

最近の記事

期間限定 晩翠怪談 夏休み特別企画 お盆の怪談

8月末日までの期間限定で、過去に『晩翠怪談』で紹介したお盆にまつわる怪談を無料公開いたします。 この機会に同作の雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。 お読みになって楽しかったら、サポートなどで応援していただけますとありがたく存じます。 郷内心瞳 ■お車で  厚木さんは市街の住宅地に立つ一軒家に暮らしている。  彼が高校時代に体験したという話である。8月の遅れ盆、迎え火の日のことだった。  夕暮れ時、2階にある自室でくつろいでいると、母が階下から「迎え火の準備を手伝って

    • 晩翠怪談 第38回 「さくら流し」

      ■さくら流し  我が家に市松人形が届いて、10日余りが過ぎた。  4日ほど前から人形は、仕事場の祭壇のどまんなかに、でんと構えて座っている。  極めて異様な光景なのだが、これには深いわけがある。  あの後も毎晩、箱の中で人形は動き続けた。魔祓いをかけると一時的に治まるのだが、翌日になれば再び動きだすか、さもなくば魚のボトルキャップに乗り移って暴れた。  本来ならば、一刻も早くどうにかしなければならないことは分かっていた。  けれども昼間の仕事に加え、ゲラの修正作業も忙し

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      • 晩翠怪談 第37回 「忌み人形」

        ■忌み人形 「なんとか処分をお願いできないでしょうか――?」  2017年3月初め。南方ではそろそろ桜が蕾を開きかける、春到来の時節である。  寿子さんという女性客から、メールで人形処分の依頼を受けた。  彼女が暮らす実家には、古びた人形がたくさんある。市松人形やフランス人形を始め、尾山人形に博多人形など、種類は雑多で様々らしいのだが、そのうち何体かの人形から“霊的な冷たい念”を感じるのだという。  圧迫されるような“冷たい念”を感じる以外、これといった実害が生じたこと

        ¥100〜
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        • 晩翠怪談 第36回 「痺れを切らす」「白の怪」「潜伏」

          ■痺れを切らす  お盆のさなか、年配の篠江さんが夜中に自室の布団で寝入っていた時のこと。  突然「おい」と声をかけられ、はっとなって目が覚めた。  枕元には、顔色を灰色に染まった亡き夫が、憮然とした表情で篠江さんの顔を覗きこんでいる。  思わず「ひゃっ!」と悲鳴をあげて飛び起きるなり、夫の顔はぱたりと仰向けになって倒れた。  見るとそれは、仏間の長押に掛けている夫の遺影写真である。  篠江さんは独り暮らしのため、枕元に写真を運んで来る者などいない。写真が勝手に長押から飛び

          ¥100〜
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        期間限定 晩翠怪談 夏休み特別企画 お盆の怪談

          晩翠怪談 第35回 「お車で」「煙顔」「あるいは再来」

          ■お車で  厚木さんは市街の住宅地に立つ一軒家に暮らしている。  彼が高校時代に体験したという話である。8月の遅れ盆、迎え火の日のことだった。  夕暮れ時、2階にある自室でくつろいでいると、母が階下から「迎え火の準備を手伝って」と声をかけてきた。窓ガラスの向こうは、暗みを帯びた藍色に染まりかけている。  窓を開けて何気なく外の様子を見ると、家の前に延びる狭い道路に長い車の列ができていた。  いずれも黒いボディの車である。  車は路上の片側車線に間隔を詰めて一列に並び、家の

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          晩翠怪談 第35回 「お車で」「煙顔」「あるいは再来」

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          晩翠怪談 第34回 「ドアスコープ」「喪のポール」「そっくりクッキー」「ディテール」「ついてった」

          ■ドアスコープ  都内で飲食関係の仕事をしている篠子さんは、五年ほど前の一時期、豊島区にある2階建ての古アパートに暮らしていた。真冬のひどく寒い晩のことだったという。  深夜1時過ぎ、寝床に入って微睡み始めていると、突然ドアのチャイムが鳴った。  こんな時間に誰だろう……。訝みながら起きあがり、足音を忍ばせながらドアスコープを覗く。  ドアの外には、蛍光灯が投げ落とす仄かな明かりに照らされた無数の小さな首が浮かんでいた。  大きさはピンポン玉と同じくらい。男も女もいたし

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          晩翠怪談 第34回 「ドアスコープ」「喪のポール」「そっくりクッキー」「ディテール」「ついてった」

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          晩翠怪談 第33回 「魔法のケーキ屋さん」

          ■魔法のケーキ屋さん  恵菜さんという、現在30代半ばになる女性が体験した話である。  小学3年生の時だという。学習発表会で彼女のクラスは、合唱をすることになった。  誰もが知っている童謡や当時流行っていたテレビアニメの主題歌など、全部で3曲を唄うのだけれど、恵菜さんは合唱には加わらず、ピアノの伴奏をすることになった。  当時、彼女は母親の教育方針でピアノ教室に通わせられていた。  だから他のクラスの子たちに比べれば、上手にピアノを弾くことができた。  けれども極度の緊張

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          晩翠怪談 第33回 「魔法のケーキ屋さん」

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          晩翠怪談 第32回 「光りし者」「からからからから」「特攻」

           ■光りし者   兼業農家の加納さんは、こんなものを見たことがあるという。  ある年の秋口、地元の寄合いに出掛けた、帰り道のことだった。  自宅へ向かってまっすぐ延びる田んぼ道を歩いていると、田んぼの中にちらりと人影が見えた。  視線を向けたところ、漆黒に染まった田んぼのはるか遠くにセーラー服を着た少女が突っ立ち、こちらをじっと見つめている。  加納さんは即座にその場を駆けだし、家へと全速力で逃げ帰った。  まずいと感じたからである。  少女は路上から50メートル近くも

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          晩翠怪談 第32回 「光りし者」「からからからから」「特攻」

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          晩翠怪談 第31回 「映りしは」「海歩き」「泣きアイス」

           ■映りしは  勝田さんという、現在四十代の男性が20代の頃に体験した話である。  当時、勝田さんは仕事の関係で関西地方のとある街に暮らしていた。  真夏の深夜、仕事絡みで親しくなった友人たちと国道沿いのファミレスで時間を潰していると、そのうち暇を持て余した友人のひとりが、「肝試しに行かないか?」と言いだした。  ファミレスから二十分ほど車を走らせた街外れに、廃墟になったラブホテルがあるのだという。地元ではそこそこ名前の知れた心霊スポットだったが、自分は一度も中に入ったこ

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          晩翠怪談 第31回 「映りしは」「海歩き」「泣きアイス」

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          晩翠怪談 第30回 「吹雪の跡」「熱々のお誘い」「瓶の中」

          ■吹雪の跡  秋田県出身の有田さんが、高校時代に体験した話だという。  新たな年を迎えてまもない時季のこと。日暮れ時から近隣一帯が、激しい暴風雪に見舞われた。勢いは夜が更けていくにつれていや増し、戸外には横殴りの風が吹き荒ぶ、鋭い叫びが木霊する。地元はそれなりに降雪量の多い土地柄だったが、これほどまでに風が猛るのは珍しいことだった。  夜半過ぎ、有田さんが自室のベッドに潜りこんでしばらく経った頃である。  出し抜けに「ばあーーーん!」と響いたけたたましい轟音に、びくりとな

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          晩翠怪談 第30回 「吹雪の跡」「熱々のお誘い」「瓶の中」

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          郷内心瞳 作品解説『拝み屋郷内 怪談始末』

           2014年4月にMF文庫ダ・ヴィンチから発売された『拝み屋郷内 怪談始末』は、実質的に私のデビュー作となります。  企画が持ちあがったのは、前年の10月。  第5回『幽』怪談実話コンテストで大賞を受賞したとの連絡を編集部からいただいてまもなくのことでした。渋谷のメディアファクトリーで当時の担当編集者と初めて顔を合わせた際に、大雑把な話が決まりました。

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          郷内心瞳 作品解説『拝み屋郷内 怪談始末』

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          晩翠怪談 第29回 「ぼん、ぼん、ぼん」「びしばしと」「ぼちゃり」

          ■ぼん、ぼん、ぼん  都内で会社勤めをしている小山内さんの話である。  8月の月遅れ盆に、彼は群馬県の田舎町にある実家へ帰省した。  帰省2日目の昼下がり、両親は親類宅へ出掛け、小山内さんは茶の間で昼寝をすることにした。  茶の間と隣接する仏間を隔てる襖は開け放たれ、座敷の奥に設えられた精霊棚が見える。  縁側の窓ガラスも開放され、時折吹きつける微風が、軒先に吊るされた風鈴を涼やかに鳴らす。外では庭木に留まったミンミンゼミが盛んに声をあげていた。  ふたつに折った座布団を

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          晩翠怪談 第29回 「ぼん、ぼん、ぼん」「びしばしと」「ぼちゃり」

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          晩翠怪談 第28回 「ずんどごキャット」「くるくるキャット」「じゃじゃ降りキャット」

          ■ずんどごキャット 「嘘みたいな話だけんど、この目でしっかり見たんだから仕方ねえ。本当に本当の話なんです」   宮城の片田舎に暮らす80代の寺守さんが、躊躇いがちにも語ってくれた話である。  今から60年ほど前、昭和四十年代の終わり頃で、寺守さんが二十代だった時分のこと。  ある晩、寺守さんは、近所に暮らす従兄の家に将棋を指しに出掛けた。  帰途に就いたのは、時刻がそろそろ深夜を跨ぐ頃。懐中電灯を片手に暗い夜道を歩いていると、ふとどこからか「ずんどごずんどご」と、景気のい

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          晩翠怪談 第28回 「ずんどごキャット」「くるくるキャット」「じゃじゃ降りキャット」

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          晩翠怪談 第27回 「場違い」「万華鏡」「残滓」

          ■場違い  晩秋の休日、赤根さんが宮城県南部のとある山中へ藪漕ぎに出掛けた時のこと。  朝の早い時間に山へ入り、登山道を逸れて荒々しく繁茂する藪の中を進み始めた。  初めて歩く山だったが、登山歴はそこそこ長く、藪漕ぎの経験も相応にある。慣れた手つきで眼前に生い茂る葉を掻き分け、山の奥へと向かって進んでいく。  順調に歩を進め、やがて二時間近くが経った頃である。  進行方向から少し離れた前方の葉が、俄かにざわざわと音を立てて揺れだすのが目に入った。  音の雰囲気から察して、

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          晩翠怪談 第27回 「場違い」「万華鏡」「残滓」

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          晩翠怪談 第26回 「ありえないもの」「盆の災難」「呼び声」

            ■ありえないもの  治部さんが秋の行楽シーズンに、彼女と地方の温泉旅館へ出かけた時のこと。  予約したのは、ふたり用の和室だった。窓から見える渓流と山並みの風景が美しい。  部屋の設えも立派だったが、ひとつだけ大きな問題があった。  部屋の一角に当たる長押に、遺影とおぼしき写真が立て掛けられている。  白髪を昔風に結いあげた、老婆の白黒写真である。首から下には和装の黒い着物が写っている。 「これって遺影だよね?」  彼女の見立ても同じだった。どう見ても遺影である。

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          晩翠怪談 第26回 「ありえないもの」「盆の災難」「呼び声」

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          晩翠怪談 第25回 「スピード引退」「すとん、ぱーん!」「消えぬれば」

          ■スピード引退  松原さんは3年ほど前にアウトドアの趣味を始め、それから2年後にすっぱりやめた。  原因は言わずもがな、趣味をやめたくなるほど恐ろしい目に遭ったからである。  初冬のある日、彼は独りで山へキャンプに出掛けた。いわゆるソロキャンプというやつである。  独りきりの贅沢な時間を愉しみたかったので、周りに誰もいない場所を探した。  ここぞと思って決めたのは、山の中腹辺りに広がる木立ちの中。  地面にはテントを張って焚き火ができるくらいのスペースがあったので、按排

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          晩翠怪談 第25回 「スピード引退」「すとん、ぱーん!」「消えぬれば」

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